企画にあたって

松本透

バブルが崩壊した当初、泡沫景気の恩恵に浴することの少なかった現代美術は、その打撃もさして被らないだろうといった楽観 的見通しすら聞かれたが、とりわけ90年代半ば以降、公立美術館の予算削減が相次いだり、街の画廊の活動が目に見えて鈍化するにおよんで、この見通しがあ まりにも甘かったことが明らかになった。とはいえ、この間に〔80年代末頃からか〕、現代美術を取り巻く社会環境そのものがかつてとは比較にならないほど 多様化した点は、永い目でみればその基盤の強化にもつながる歓迎すべき要因といえるかもしれない。ギャラリーαMのような、美術館でも商業画廊でもない非 営利の展示施設の活動もその一つであり、その役割は今後ますます大きくなるだろう。
さて、企画を担当するにあたっては、同ギャラリーの非営利施設たる利点を生かして、社会的知名度や活動歴の長短などにとらわれずに、見るべき作家の発見と再発見に努めたい。とはいえ、カメラ、コンピューター、ヴィデ オといった機器が、従来の絵具や石膏等とならぶ表現手段となり、技法、展示方式、様式、主題のどれをとっても複雑化と多極化をきわめる今日、一人の人間の 眼なり問題意識なりのとどく範囲はあまりにも限られている。各展覧会の人選や論評の全責任を担当キュレーターがもつのは当然であるが、3人のキュレーターで折にふれて議論を重ね、16回の展覧会の全体構成をたえず念頭におきながら、企画にあたることにしたい。

松本透 まつもと・とおる


東京国立近代美術館美術課長。1955年、東京都生まれ。京都大学大学院修士課程修了。
主な論文に、「カンディンスキーの芸術理論における絵画の形式と内容の問題」(『芸術の理論と歴史』思文閣出版、’90年)、翻訳に、『カンディンスキー--抽象絵画 と神秘思想』S.リングボム著、平凡社、’95年)など。手がけた展覧会に「現代美術への視点--色彩とモノクローム」展、「カンディンスキー」展、「村岡三郎」展など。

(※略歴は2000年当時)