変成態―リアルな現代の物質性 Metamorphosis : objects today

design: 菊地敦己


変成態―リアルな現代の物質性
天野一夫


 
ここでは現代の造形の根幹となっている、物質観の変容について考えようとするものである。高度に情報化し、非物質的な映像環境に取り巻かれる中、作家の物との対し方も大きく変化してきているのは明らかであろう。そして、かつての物質的な想像力、物とイメージとの摩擦とも異なる、近年の新たな 造形に焦点を据えようとするものである。

かつて日本の造形は物への依存、あるいは物の論理に沿った自然への一体感から作られ、汎神論的な心性もあって、近代においても日本特有のオブジェ的な志向を力とすることともなった。しかし現代においては、かつてのオブジェ的な面影を引きずっていた造形から、一挙に張りぼての造形に転位しているようにも思われる。それは素材から来る、物の生成の論理というものから、あえてずらしていこうとする態度でもあろう。しかしそれでも視覚的な触覚性はいまだに保 たれていて、また彼らは物そのものを充分扱ってもいる。ただその時に作家はフェティッシュな自愛に向かうことなく、物に対してある距離感を保っている。日常品も世界に対する時の一つのフィルターであろう。物との近くて遠い感覚の中でこれまでとは異なる変成態が生成されようとしているのだ。それはかつての「類彫刻」ならぬ、新たな「のようなもの」でもあろう。現実の物質を徹底して扱いながらも、深度の方向ではなく、横滑りに他の回路を穿ち接合していこうとするような様。物はそこに確かに在りながらもことごとく急速に変転し逃れ去って行く。それは中心性を持たずに連結し、他の領域に開き、固定した意味から逃 れようとする、ドゥルーズらの「現代思想」の姿を想起させるだろう。むしろ様々の物ものが不断に変転していく、そのような横ざまに動く局所。それは物の実 体の無いままに被膜のみで成り立っている薄さで、そこでは反転することすらたやすいだろう。それは流出的で常に変成していく、一つの可能態なのである。

以上のような造形の特質を持つ、10作家の新作を主とした展観を予定している。

 

天野一夫 あまの・かずお

 1959年東京都生まれ。現・豊田市美術館チーフキュレーター(O美術館学芸員、京都造形芸術大学教授を経て現職)。

主な企画展に「書と絵画との熱き時代」展(O美術館、1992年)、「ART IN JAPANESQUE」(O美術館、1993年)、「メタモルフォーゼ・タイガー」展(O美術館、1999年)、「プログラムシード」展(京都芸術セン ター、2002年)、「「森」としての絵画―「絵」のなかで考える」展(岡崎市美術博物館、2007年)、「六本木クロッシング2007」(森美術館、 2007年)、「近代の東アジアイメージ―日本近代美術はどうアジアを描いてきたか」(豊田市美術館、2009年)など。

主な著作に『日本画の誕生』(共著)、「日本画」―内と外のあいだで』(共著)、『美術史の余白に』(共著)、など。

(※略歴は2009年当時)