インド・日本彫刻キャンプドキュメント

坂本浩人、
祐成智子、祐成政徳、
廣瀬光、
藤井龍徳、松田文平、
宮澤泉、山崎隆、
マヘンドラ・パンディア、ラティカ・カット、
マダン・ラル、ビノド・シン、
サルバリ・ロイ・チョウドリ、
ナイル・D・ラジャセカラン


1989年3月14日~4月8日



バローダで芽ぶいたシンポジウム

たにあらた

インド西岸の都市ボンベイから北方に約350キロメートルほど向ったところに、今日、日本人8名、インド人6名の計14名の作家が集い、“彫刻キャンプ”をもった町バローダはある。

文化的水準も高いといわれるこの町には、5年ほど前から同地にある国立の石油化学会社IPCLが企画主体となって開催している美術展があり、その企画に今回初めて日本から8名の彫刻家が招かれ、インドの作家とともに彫刻キャンプを張った。
“キャンプ”とは美術分野に限ると日本人にはそう親しい呼称ではないだろうが、いわゆる“シンポジウム”と呼びかえてもよいだろう。作品ジャンルでいうと特に彫刻・立体においてこの呼称を用いるケースが多く、今回の展覧会形式や企画主旨はこの流れのなかにあるとみてよい。
そこでは日本作家の主意書にもあるように、オーストリアとハンガリーの国境に「境界石」を制作したオーストリアの彫刻家カール・プランテルの提唱によって始まった1959年以降の彫刻シンポジウムという展覧会形式の精神が生きている。つまり、アトリエという芸術品生産のための固有の時空からひとたび離れて自らの作品を眺めかえしてみること。それと引きかえに生じるといってもよい作品とその社会性、作品とその地域環境のなかにおける関係性について考察すること、など。
もともとIPCLのこの美術展企画主旨が<作品と環境><作品と地域>という切り口でスタートしている。ジャンルは彫刻から絵画、グラフィック、テラコッタ、陶芸など幅広くカバーしようとしているが、それらの研究キャンプを催す狙いは“環境の質的向上”と“学生、住民、労働者などの美術に関する関心を高める”といったことである。
今回展はすべて石彫で、日本からは坂本浩人、祐成智子、祐成政徳、藤井龍徳、廣瀬光、松田文平、宮澤泉、山﨑隆の各作家が、またインドからはマヘンドラ・パンディア、ラティカ・カット、マダン・ラル、ピノド・シン、サルバリ・ロイ・チョウドリ、ナイル・D・ラジャセカランが出品した。出品したといっても、いうまでもなく作品は日本やインド各地のそれぞれの作家のアトリエから運ばれたわけではなく、すべて現地制作である。
IPCLに隣接する野外(バロダラの森)がその制作場であり、昨年12月15日かた今年1月14日まで一般公開された。

展覧会の会期終了後、作品はIPCLへの寄贈というかたちをとり、バローダの公園や病院などの公共施設に設置されることになっている。
日本も毎回参加しているインドで行なわれる現代美術展としては、3年ごとに開催されるインド・トリエンナーレがよく知られているが、これほど大がかりな国際展以外に、日本とインドのあいだでは民間ベースの現代美術交流もここ数年とみに盛んになりそうなきざしにある。今回の企画はまったくの民間ベースというにはやや語弊があるものの、この企画実現のために奔走した山﨑隆をはじめとする作家たちの活動ぶりを後追いすれば、従来の国際展とはまた異なった意義も見出せるだろう。企画主旨や運営方式などで、まだ残された問題も多いだろうが、ひとつのステップを踏んだことは確かである。