ギャラリー・トーク

タニシK×山口裕美

2003年3月8日(土)


■「パフォーマンス」…電車で楽しいこと

堀: 本日はアートプロデューサーとして活躍中で、トウキョウトラッシュというwebサイトの主宰であり、昨年、光文社新書より「現代アート入門の入門」を出版なさっています、山口裕美さんとアーティストのタニシKさんとの対談をして頂きたいと思います。

山口: まずは初個展ということでおめでとうございます。

タニシK: ありがとうございます。

山口: どういう風に展覧会が立ち上がっていったんでしょうか。

タニシK: このお話を頂いたときがちょうど1年前です。それから何度もここに通いながら何度もプランを変えていきながらやっていきました。はじめはここを博物館にしようとか、私のアシスタントキュレーターの清水さんとそんなことを言ってたんです。彼女はこの映像も撮ってくれていて、一緒にバルセロナへ行ったりソウルに行ったりと、一からフライトを一緒にやってくれた人です。それで、ここを空港にしようとか言っていて、だけどここがフローリングというのもあって難しいし、いつもガラス張りの部分が多いですし。とても自然光のはいる空間で和やかなんですが、空港にするのにはけっこういろんなことがありまして、ギリギリまでプランを考えました。

山口: 堀さんがキュレーションをなさった訳ですが、よく見つけてきましたね、タニシさんを。

堀: 最初のグループ展、蛙展が横浜のstudio BIG ARTというところで、昨年2月ぐらいにありまして、横浜への道という横浜線(および東急東横線)でのパフォーマンスを見ました。それで是非展覧会を、と思いました。

山口: 気に入られたポイントというのはどのあたりだったんですか?

堀: まず他に誰もやらないだろう!というところですね。それと、本人がそこにいたのにわからなかったんですよ。僕がBIG ARTに行ったときに彼女が何かごそごそやっていて、この人は友達か何かだろうなあ、と思っていました。

山口: 本人だってわからなかったということは、堀さんは映像そのもので面白いとおもったんですね。パフォーマンスをやっているタニシさんという認識ではなくて、映像作品という認識で。

堀: そうです。やっぱり映像ですね。本人を見る前に映像を見てちょっと会ってみたいという気になりましたね。その時にαMプロジェクトの作家を4人を選ぶということを考えていまして、最初、西山仁展(7月開催)を考えて、それから2番目にタニシKさんを決めました。

山口: (会場に向かって)今までタニシさんのパフォーマンスを見たことある方いらっしゃいますか?(会場数名挙手)…ということはここにいる方はほとんどが初めてですね。素朴な疑問だと思うんですが、何故電車でパフォーマンスをやっているのですか?

タニシK: これは色んなことが重なっていて、まず電車空間自体をつまんないなあ、と思っていました。私は電車に乗りだしたのが高校の時だったんですが、高校に行くには地下鉄で行かなくてはならなくて、その時、朝の電車はすいてはいるんですけど…本当に面白くないんですよ。凄い緊張しちゃって。

山口: 電車って確かに変な感じありますよね。

タニシK: そうなんですよね。それで電車って楽しいことないかな、って思っていて…学校に行っている時に乗りながら車内でいろんなことあるんですよ。突然事故とかあったり。それで「あっ!」と思うんだけど、隣の人とかに「見ましたよねぇ」とは言えないじゃないですか。そこでいま突然何か起きたらどうなるんだろう、とそういうのが心の中にありました。

■「フライトアテンダント」…イメージの中のスチュワーデス

山口: 世の中にはコスプレと言われているような人たちもいるわけです。コスプレ人口は今、40万人ぐらいと言われているそうなんですね。でもフライトアテンダントの恰好をすることを主としてやっているわけではないんですよね?

タニシK: はい。方向変えたら?と言う人もいますけど、ちょっとそれは違っていて…。今はフライトアテンダントの恰好をするのも割と普通で、お仕事でやっています、という感じです。このパフォーマンスをするにはこういう服装と自分で決めてるんですよ。だから機内の恰好でないとアウトですよね。このスチュワーデスの恰好は私の中のイメージなんです。もちろん実際は、手袋はしてないし、帽子も被ってないし…こんな恰好してないんですよ。一応このパフォーマンスをする前に、飛行機にのって確認しておこうと思ったんです。そしたら全然違っていまして、本当は飲み物とかも私はお客にコップを持たせて注いでるんですけど、本当はフライトアテンダントが自分でコップをもって、注いで渡しているんです。こぼれても自分にお茶がかかるようにしているんです。そういうの見るのは面白いです。やっぱり、私は自分のイメージの中のスチュワーデスなんですね。

堀: でもそれでもいい、ということですか?全く同じようにするというのは大事なことではないんですね。

タニシK: はい。私にとっては。やろうとしたけど結構難しいんですよ。

山口: (笑)結構、電車って揺れますよね。

タニシK: 揺れます。自分で「乱気流ご注意下さい」と言いながら、自分がよろけたりしています。

■「リアクション」…通り過ぎた後、私の事を話している

山口: パフォーマンス時のリアクションというのはどうですか?

タニシK: 結構面白いんですが、反響というのはそんなになくて、私が通り過ぎた後、私のことで話してるとフライトの時に一緒に乗ってくれた友達から聞くことが結構多いです。そういう「なんだろう?」とか「お茶がおいしかった」とかそういうのが面白いなぁと思っています。それと、電車に乗っていて、私がもちろんこの人はあの人の彼女だろうと思っていると実は彼女ではなくて、駅でバラバラに降りていった時に、あー知らない人同士かもしれない、良かったーと思うわけです。

山口: ちょうど、私がこちらにお邪魔した時に韓国編が上映中で見させていただきました。映像の中では興味を持ってニコニコしている方や、警戒心を持っている方もいて。いかにもジュースを飲みたそうな子供もいるけれど親に叱られると思って躊躇していたり。

タニシK: うーん、お母さんに怒られてる人とかいました。「その人を見るな!」とお母さんに言われてる子供がいて、あ、かわいそう、私失礼だなって。あと「飲み物いかがですか?」とお姉さんに勧めてた時、近くの女の子が「わたしも飲みたい」といきなり言い出したので、その子のお母さんがすごい慌てて、私どうすればいい?と。(笑)

堀: どう対応していいのかわからないんでしょうね。

山口: でも中年のおばちゃんは優しいでしょう?

タニシK: おばちゃんはわりと優しいですね。

山口: なんか全てをわかっていて、飲んで、隣の人にも勧めてカップをかえしてくれる。いいですよね女性は(笑)。でも国によって全然違うのかしら?

タニシK: バルセロナではおじさんに気に入られて…。実はバルセロナではスペイン語は少しは勉強しましたけれど、そこまで色々はわからないし、向うはわりと話すのが早いんですよ。それで全然ついていけなくて「あーあー」とか言ってます。映像をみていただくと分かると思いますが、電車から駅のホームへ降りたときに、数分おじさんとやりとりをしまして…昨日ちょっとこの会場にスペイン語わかる方が教えてくださって、知ったのですが…口説かれていたそうで、私ちょっとすごいなぁと。

山口: (笑)終了はどうするんですか?終点までフライトを行うのですか?

タニシK: 日本の場合は終点まで行きまして、それで、はい終わりーという感じです。

山口: 終わりのアナウンスとかは?

タニシK: アナウンスはないですよ。

山口: 飛行機だと「ご搭乗ありがとうございました」とかセリフがあるじゃない?

タニシK: そうですね。ドアを開けるときに「ありがとうございました。」と言うだけです。もう(終点まで)行っちゃったら行っちゃったで私も降りちゃいますし。バルセロナに関しては、次の駅で終点となったら「バイバーイ」とお客さんに言ってから、「あ、私も降りまーす」とか言ってそのまま一緒に降ります(笑)。結構適当な所がありますね。

■「存在」…虫になりたい

山口: あの、一度、鉄道会社の方に怒られたと聞きましたが…?

タニシK: …はい、怒られました(笑)

堀: 僕が一回パフォーマンスに実際立ち会ったことがありまして。その時に捕まりました(笑)。

タニシK: その時は、運転手さんが駅で電車を止めて来て「何してるんだ」と言われました。それで「怪しい者じゃないんですけど」と言って…

山口、堀: (笑)

タニシK: それで、どうしようどうしようとか言ってたんですよ、でもそのまま続けてたら、次の駅で指導員がついちゃって、降りて下さいといわれて降りました。ホームで何分間かお話をしたんですが、駅員さんがパニックになっちゃって。「何でこんなことをお前、やってんだよ!」っていって。「自分で自主的にやってるんですけど」って言ったら「自分のお金でやることじゃないだろう!もっといいことに使え!」ってお金の使い方にまで説教されて(会場爆笑)。他のところのまわし者かと思われて…。

山口: まわし者?

タニシK: はい。あのI線だったんですけれど。I線自体のイメージを悪くするために送り込まれた人かと思われて。本当ですよ。「お前今何やってるんだ」と言われ、私、学生ではないから、学生証とか身分証明ができるものがないので「アルバイトです」と言ったら「やっぱりか!」と言われました。送り込まれる仕事のバイトだと思われたみたいです(笑)。

山口: それで最終的に何と説明したんですか?

タニシK: 説明したんですが、それでも、向こう側は埒があかないなぁ、と言い始めて。次の駅に自分の上司がいるからと言って次の駅まで行きました。駅員室で、自分はこういうことをやっています、と言ったら駅員さんが紙持ってきて、駅員さんが言った通りのことをそのまま書かされました。

山口: 調書ってそういうものなんですよ。

タニシK: 具体的に何をやっていたのかな、と駅員さんが悩んでいたので、「ワゴンサービスです。」と言ったら「『ワゴンサービスのようなもの』」といわれて、ああそうだなぁ、と思いました(笑)。ハンコ持ってないでしょ、と言われて拇印押しました。そのあと、すごい落ち込みましたねー…。

山口: 何が悪いんだ!これは表現活動なんです、と言えば良かったのに。

タニシK: あー…思いつかなかったですね。

山口: 早く逃げたかった?(笑)

タニシK: やっちゃいけないことだったんで…やっぱり…

山口: 「やっちゃいけないことをやっちゃった」と思ったんだ、、、。

堀: 違う電車ではやってるじゃない。

タニシK: あ、ハイ。違うところならいいかなと思って(笑)。

山口: でも、鉄道会社側は「見たことがない何かが現れた」ってことなんでしょうけれど、乗客側は「タダで飲み物が飲めて楽しめた」ということでタニシさんはエンターテインメントとしてやっている部分もあるのだし「私のどこがいけないんですか」と聞き返す必要があると思うけれど、、、。

タニシK: 電車に乗ってお話しすること自体がダメみたいでしたね。

山口: 本当ですか?

タニシK: そういう風に言われて。この恰好もダメみたいなことも遠回しには言われました。「ほんとにそれ普段着?」とか。だけど、飲み物配ること自体がもうダメで、それは私自身、わかっています…もしその飲み物に何か入っていて問題があった時に、I線に責任がいきますから。

山口: でも、邪魔しているわけではないしねぇ?そう、目くじらたてるようなことではないし。まわりのみんなが嫌がってるかどうかとか、聞いてみないとわからないものじゃない。

タニシK: うーん。あとお客さんも笑っているけれど、本当はどこまで受け入れているのかとかもありますよね。日常の中に、ブーンって虫が来て、その虫に刺されないようによけたり、とかそういう感じがあったらいいなと思ったんです。だから、虫になりたい。

山口: わかるようなわからないような気がします(笑)。でも調書は書かされてからもI線乗ってるんでしょ?そのI線自体のイメージは悪くなってない?

タニシK: でも捕まった後はここの駅員さんは恐いかどうかとか、チェックするようになりましたね。

■「対話」…地道な活動なんです

堀: やっぱり対話をしてるということが一番ポイントですね。コミュニケーションを拒否する人もいれば求めてる人もいると分かるのが面白いなと思います。都会のコミュニケーションが現れてるようで。地方とはまた違うのかな。

山口: 地方の電車だともっとのんびりしていますよね。
そういうとこだと却って、ウェルカム!という状況でやりやすいかもしれないから、やはり、都市の方で人も増えていく場所でやるのがいいのかと思います。

堀: このフライトはまだこれからも続けていくの?

タニシK: はい。何回かフライトをやっていても、お客さんで「私、この前もサービスしてもらいました」という人はまだ1人もいませんね。

本当に場所によって毎回フライトの内容が全然違うんですよ。私自身のモチベーションとかが変わるというのもありますし、乗ってる人の反応も違ったりしますし…。もう少しやっていけたらいいなと思っています。

山口: タニシさんの活動は、新しいタイプのパフォーマンスだなと私自身思っています。今までのパフォーマンスをしたり、それを撮影したりというのはある程度の演出をして、演じるという形で行われていると思うんです。まぁ、タニシさんも何がどうなろうとも、スチュワーデスだったらスチュワーデスに徹してるんですが、彼女の場合は曖昧な部分を残しつつ、人の出方によってキャラクターを変えるような、台本のない演技になっているんですよね。

タニシK: ほんとに地道な活動なんです。美術館に行ってみて!とかではなく、人は電車の中で私がパフォーマンスをしていると思ってないですよね、だから「何でやってたのかな?」とか家に帰った時にたまに思い出してくれたらいいかな、と思っています。今回、色々なメディアに掲載されたので、前回フライトに遭遇したお客さんが偶然、その記事を見てくれてまわりに話してくれたかな、と考えることが面白いです。

山口: そうですね。それこそ今はカメラ付きの携帯ですぐ「こんな人いたよ」って撮影できるし、それで「君も東横線でタニシKを探せ!」とか、できちゃうかもしれないですね。そういう街の噂のようなもの。それから、あと普通のパフォーマーだったら、まわりに人がいっぱい集まった時(韓国編にて子供達に囲まれている場面)に「はいみんな待ってー」って並ばせようとするんですよ。でもタニシさんはそういうことをしない。驚きました。

タニシK: ほんとにここにいる人たち大好きで(笑)。可愛かったですよ、横にいるお母様が私の韓国語が通じてなかったから教えてくれました。

山口: 本当はビデオを見てもらうより生で見にきてほしいんですか?

タニシK: でもフライトを見に来てもらう、というのはちょっと困るんですよ。突然とか偶然を狙うのが面白いから。だから誰かメールとかで見に来るって言われると、会ったときに何て言えばいいかなーとか考えちゃって(笑)。

山口: ビデオは編集してもらったそうだけど、ダメ出しとかしました?

タニシK: はい、でもほとんど切ってないんですよ。一緒に映像みながらここまでお願い、とかそういう感じでやりました。でも、日本語を喋っているときの方が、変なことをいっぱい言っているんですよ。だからそれが恥ずかしくてカットしてもらいました。

山口: 今までのビデオ作品だと字幕が入って、その場合は一番大きい声で喋っている中心人物の声しか取上げられない。タニシさんの作品だと車内のいろいろな人の声が聞える。私がこのシリーズの作品で新しいなと感じるのは、そこなんです。タニシさんのパフォーマンスにそれぞれの人が同時にリアクションしている全体が作品だってこと。

タニシK: このビデオを撮っている時も、もっと私から聞こえた色んな会話があったんですよ。後で見ると入っていないですよね。

山口: あと、タニシさんが入ってきて、それで次の車両に逃げる人とかいますよね。でもまた移動すると見えてきて、今度はその人は逃げないでじーっと見てたりとか。見て見ぬ振りとかそういうのが映像に入ってるんですよね。

タニシK: はい、先の車両から凄く見ているのに、私がそこに移動すると見ていない振りを突然したり。

山口: そういう人をいじったりするの?

タニシK: いや、色んな人に話しかけます。寝てる人は起こさないけど、私のアナウンスで起きた人とかはいて、そうすると「どうもすみません」って。

山口: 「起きたらお声をおかけください」とか貼っておけばいいんじゃない(笑)?

タニシK: (笑)機内ではありますよね。ちょっと嬉しいですよね、「あ、来たんだ」と分かりますし。

山口: 電車の中というのは、パブリックとプライベートが微妙に合わさっていて、私の領域の中に入ってきたという考え方もできるし、パブリックだと思っていて、まわりの人が気にしている、という一面もあると思う。

タニシK: 最後に告知をさせていただきます。明日3月9日、サンキューアートの日で、アートの記念の日にしようという日なんですけれども。私はサンキューフライトを計画しています。渋谷発の銀座線で3時頃ということでフライトをやりますので、もしこの時間に渋谷にいらっしゃいましたらどうぞご搭乗お願いいたします。

堀: 明日お時間がある方、実際に見られる方は楽しみにしていただけたらと思います。では、どうもありがとうございました。