複合回路 vol.1 接触領域―田口行弘

photo:(C)Yukihiro Taguchi


2010年4月17日(土)~ 5月26日(水)

Exhibition view

洞穴で見る真実

高橋瑞木



解体と構築という行為が田口の「作品」である。ベルリンではアパートのフローリングの床を剥がし、街中でその床材を用いてベンチやバドミントンのコート、あるいは用途不明の構造物を作ってはすぐに解体した。ソウルでは商店街に積まれた段ボー ル箱を積み木のように積んで、新しいかたちをつくってはまた壊す。だから、彼の作品の「全体的なかたち」は記憶されることがない。田口の行為は「全体性」や「かたち」といった概念をからかうように、街なかで見つけた素材と戯れながら固定のイメージからすり抜けてゆくのである。

本展ではベンヤミンが 『パサージュ論』で比喩的に用いているあのファンタスマゴリーさながらの空間が展開する。家具や日用品による構造物、そして壁に映るそれらの影という虚像。そして各所に現れる影の映像(田口はこれを虚像の虚像と呼んでいる)。そしてスクリーンの向こうにある空間の中で作業をする田口自身の影。

一見投げやりに見えるがしかし周到に配置された日用品の構成が作品なのか、それともそれらが壁に落とす影が作品なのか、影が映す田口のパフォーマンスが作品なのか。いや、それら全てが補完しあってこその作品だと得心がいった瞬間にも、かたちは崩され、新たな像を結んでゆく。それは田口が会期中にモノの配置の解体と構築を続けるからだけではない。ギャラリーを訪れる鑑賞者のシルエットの介入が、常にかたちに変化をもたらすからである。こうして、作品を観に来た 誰もが解体/構築の共犯者となる。

実像と虚像、芸術と日常、静と動、主体と客体、これらの相反するものごとが境界線を侵犯しながらわたしたちにそこで見せるものは、それこそ作品と呼ばれしものの束の間の幻影なのだろうか。ならばその幻影の洞穴にこの身を置いた私たちは、一体どのような真実を見るのだろう。

 

▊田口行弘 たぐち・ゆきひろ▊
1980年大阪府生まれ。2004年東京芸術大学美術学部油絵科卒。2005年よりドイツ・ベルリン在住。まず創作をする土地に赴いてからその場特有の素材(廃物の場合もある)を発見し、それを用いて街中やギャラリーでその場に即した即興のインスタレーションを 制作しては解体してゆく。そのインスタレーションは、機会に応じてミーティングやパーティのためのスペースやパフォーマンス用の舞台、スポーツのコートな どに形をかえ、他者に解放される。またその制作・解体の行程は映像で記録され、作品化される。http://yukihirotaguchi.com/

(左)「Moment (15pics)」 performatives spazieren(wandering), 2008, Berlin, (C)Yukihiro Taguchi
(中)「Moment (15pics) 」performatives spazieren(wandering), 2008, Berlin, (C)Yukihiro Taguchi

(右)「Ordnung (16pics) 」performative installation, 2008, Berlin, (C)Yukihiro Taguchi

●協賛:株式会社資生堂

助成:公益財団法人野村財団、財団法人朝日新聞文化財団

認定:社団法人企業メセナ協議会