成層圏 vol.3 風景の再起動―下道基行

photo:「bridge 00」 Kyoto,Japan 2011.3.16


2011年7月9日(土)~8月13日(土)

Exhibition view

風に吹かれて

高橋瑞木



本来なら、今回は第6回目のRe-Fortを元にした展覧会が開催されるはずだった。Re-Fortとは、下道が2004年より断続的に開催している、美術家や建築家など複数の参加者とともに、砲台跡や掩体壕といった戦争遺跡を再利用してイベントを行うアートプロジェクトのことだ。重い歴史を背負いながらも日常の風景に埋もれてしまっている戦争遺跡でイベントを発生させることで、戦争の記憶に対する私たちのリアリティを浮き上がらせ、問いを投げかける。そんなプロジェクトであり、作品だった。
冒頭に「はずだった」と書いたのは他でもない、3月11日におこった地震と津波、そして原発事故によって、Re-Fort6の実現が頓挫してしまったからである。下道は今年の3月にαMで過去5回のRe-Fort の記録を紹介しながら6回目の参加者を募り、今回の展示に向けて6月にこのプロジェクトを実施する予定だった。プロジェクト中止には時間や物理的な理由が 当然関係しているが、下道の心境の変化がやはり一番の要因だ。見知らぬ土地で大勢を集めて行うアートプロジェクトは、今彼がやることではなかった。

おそらく、今回の震災や原発事故を境に無数の「はずだったこと」が生まれた。では、喪失の誕生からひとは何を創造することができるのだろうか?



 本展の会期中、下道は地震の後に購入した小さなバイクで日本国内を旅し、そこで出会った風景をギャラリーに置いてあるプリンターに随時送信する。プリンターから出力される風景は、下道からの投瓶通信であり、3月11日以前と以後、自分と世界の間を少しずつ繋げていこうとするアクションだ。まず、自分ひとりでできることからはじめる。速度を落としながら、移動する。そして、ていねいに自分の周囲を見回してみる。風はどちらの方角から吹いてくるだろうか?明日は雨だろうか?そんなささやかすぎる問いすら、少し意味が違って聞こえる日々の中で。

 



▊下道基行 したみち・もとゆき▊

1978年岡山県生まれ。2001年武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。2003年東京綜合写真専門学校研究科中退。2005年、日本全国に残る軍事遺構を探し撮影した「戦争のかたち」を出版。日本全国で放置されている戦争の遺構を使い、イベントを起こしながらそれを記録していく「Re-Fort」のほか、「日曜画家」、「旅をする本」など多数のプロジェクトを行う。
http://m-shitamichi.com/

(左)「戦争のかたち」 2005
(右)「RIDER HOUSE」 2006


 協賛:キヤノン株式会社