資本空間 –スリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸
vol.7 白川昌生

白川昌生「増殖と消費(部分)」2015-2016


2016年2月20日(土)~3月26日(土)
11:00~19:00 日月祝休 入場無料


白川昌生-敗北の記念碑と太陽                 Inside Looking Out(7)
山本和弘



 弱肉強食とは自然界の食物連鎖の摂理だ。摂理を“エコノミー”という語で考察したのはチャールズの祖父のエラズマス・ダーウィン。ただし弱肉強食とは俗な言い方で、適者生存あるいは自然淘汰が正しい。すなわち強者ではなく、環境の変化に適応したものがサバイバルするのが摂理=エコノミーというわけだ。
 強者の芸術と弱者の芸術を今日の経済環境で眺め渡すと、超富裕層の愛玩物に収まる芸術が強者で、富裕層にも庶民にもそっぽを向かれた芸術が弱者のように思われるかもしれない。しかし毛利嘉孝1と田中功起2の優れたマイナー作家論を引き合いに出すまでもなく、芸術そのものが社会においてマイナーであり続けるこの国(実は全世界)を逆照射し続けるアーティスト・サバイバー白川昌生は、活動的生あるいは創造的資本が論理的には強者でありながらも現実にはマイナーであり続ける社会摂理を開示し、体現し続けている。
 つまり《敗北の記念碑》は、勝者になりうる可能性を保ちながらも、現実にはマイナーとしてのみサバイバルしうる芸術そのものの隠喩であり、勝者の潜在性は常に敗者にみえる芸術のジレンマの象徴であることがわかる。
 さて、芸術を社会へと拡張するために様々な活動を展開すると、アートワールドにおいてはよりマイナー性を高めるという矛盾が生じる。ヨーゼフ・ボイスがその典型だ。すなわち白川は研究、出版、講演、祭りなどのイベントを多彩に展開させることによって芸術を活動化させながら、自らのマイナー性を強化しているようにみえる。この立ち位置は市場という強者に対してかけるレバレッジの支点を贈与に置くことによっても相殺されることはない。市場の極左と贈与の極右は隣接しているかもしれないからだ。市場と贈与を反転させるレバレッジはまさに「力点と支点の距離を長く、支点と作用点の距離を短く」というアルキメデスの宇宙的原理に則っている。
 白川における支点は、けっして大袈裟ではなく、太陽にあるとみてよい。太陽が支点、地球が作用点、そして白川が力点にいる。いうまでもなく力点となるべき極星すなわち白川の立ち位置は気が遠くなるほど彼方に措定されるだろう。そのくらいの力・支点の距離がなければ、地上の芸術が社会を動かすことはままならないからだ。よって《イエロー・プラン》や《Tomoko & Light》をはじめ白川作品の随所で明滅する黄金色はその太陽の放つ熱と色彩と解されうる。師のギュンター・ウッカーと色彩論以後の褐色を基調とするボイスが例外的に用いる黄金色のように。
 このような適者が生存することは資本主義空間においては今もなお、そして将来も極めて難しいだろう。それでもなお白川に続く(ソーシャル・)アーティストたちはこの極星を指標とすることによって資本空間に向かうことが可能となるはずである。
 なぜなら、太陽は燃えているクワンド・カリエンタ・エル・ソル、からだ。


1 毛利嘉孝「マイナー芸術のために」『白川昌生 ダダ、ダダ、ダ』展カタログ所収、アーツ前橋、2014
2 田中功起「アーティスト・ノート―マイナーの読み替え、共同体の位置」『引込線2015』カタログ所収、引込線実行委員会,2015



▊白川昌生 しらかわ・よしお▊
1948年福岡県北九州戸畑生まれ。1981年デュッセルドルフ国立美術大学卒業。修士称号。主な個展に2014年「白川昌生ダダ、ダダ、ダ地域に生きる想像☆の力」(アーツ前橋、群馬)、2007年「白川昌生と『フィールドキャラバン計画』」(群馬県昭和庁舎、群馬)、2002年「サチ子の夢」(現代アートセンター、メッス、フランス)、1999年オープンサークル・プロジェクト(モリス・ギャラリー、東京)、1994年「SHIRAKAWA’94日本美術試作ー日本人ですか1」(佐賀町エキジビット・スペース、東京)など。主なグループ展に2015年「引込線」、2013年「カゼイロノハナ未来への対話」(アーツ前橋、群馬)、2012年「水と土の芸術祭」(小野田賢三らと《沼垂ラジオ》で参加)(新潟)、2002年「第7回北九州ビエンナーレーART FOR SALE アートと経済の恋愛学」(北九州市立美術館、福岡)、1993年第「2回北九州ビエンナーレークロノスの仮面」(北九州市立美術館、福岡)など。

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(左)「無人駅での行為(群馬と食)」、2000年、撮影:木暮伸也,
(中)「Tomoko & Light」2014年、撮影:木暮伸也,
(右)「馬屋の木馬」2011-14、撮影:木暮伸也,