トランス/リアル - 非実体的美術の可能性 vol.1 越野潤

越野潤「WORK16-5」2016年、silkscreen paint on perspex


2016年4月9日(土)~5月14日(土)
11:00~19:00 日月祝休 入場無料


Translucent / Surface ― 越野潤
梅津元


「一見、何もない、という感覚に襲われるぐらい、研ぎ澄まされた展示。」

 「トランス/リアル」と題された企画は、冒頭に掲げた意図を明確に実現しうる芸術家として私が信頼を寄せている、越野潤の展示によって幕をあける。越野の作品を見てきた経験から、その作品の質の高さと魅力に期待しており、越野自身が納得する展示が実現すれば、人に響く展示になることを確信している。反応してくれる人の数ではなく、反応してくれる人の芸術経験の深さが重要である。芸術作品の受容とはそういうものである。(そのことをあえて明言しなければならないという状況には危機感を覚える。)
 空間のヴォリュームに対する作品のヴォリュームは控え目で、この展示を決断するには、かなりの勇気を必要とする。しかし、越野の作品は、その控えめな大胆さに見合う質を、確かに保持している。作品は、あたかも光源のように空間を静謐に満たし、目に見えなくとも、その光源から発せられた光が届く範囲までは、その作品のテリトリーとなる。つまり、作品の物理的な大きさによってではなく、その作品のテリトリーを基準に、展示が構成される。芸術世界を、現実世界において感覚可能な状態で存在させるにあたって、越野が導き出した必要最小限にして最大の効果が期待できる作品のヴォリューム、それが、今回の展示である。
 越野の作品の特徴である「Translucent/半透明」は、「透明なアクリルに不透明なシルクスクリーンで塗装する方法(越野)」によって獲得されている。つまり、半透明という特徴をそなえた材料によってではなく、透明と不透明のかけあわせにより、鑑賞者の視覚経験において半透明性が成立している。また、本展に向けた新作の制作状況の報告を受けて、「color/色彩」ではなく「surface/表面」をタイトルに採用して正解だったと再認識した。越野の作品は色彩表現を志向しているわけではない。物質と色彩を活用しながら、5つの面からなる非実体的な光のヴォリュームの受容へ、そして光に満たされた空間の把握へ、見る者を誘うからである。
 越野潤の作品に見られる「Translucent/Surface=半透明/表面」という特質は、透明な芸術世界と不透明な現実世界のインターフェースとして、作品が顕現することを明示している。そこに、「美術の非物質化」とは異なる局面として、「非実体的美術の可能性」を見いだすことができる。この可能性は、モダニズム以降の美術におけるメディウム論とも関連する「トランス/メディウム」というコンセプトをふまえて、次回以降、継続して探られることになるだろう。


▊越野潤 こしの・じゅん ▊
1967年大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。
主な個展に2014年「8 WHITE RECTANGLES」(あしやシューレ、兵庫)、2013年「PERSPECTIVE」(アートスペース・ゼロワン、大阪)、2012年「interlude」(ギャラリーヤマグチクンストバウ、大阪)など。主なグループ展に2014年「北野吉彦・越野潤二人展」(NSA noborimachi space of art、広島)、2012年「うつせみ」(常懐荘、愛知)、2011年「SUBTLENESS/三浦洋子・越野潤展」(ギャラリーヤマグチクンストバウ、大阪)、2006年「無の衝動」(群馬女子大学、群馬)など。
http://www.junkoshino.com/

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(左)「interlude」pigment and casein on alminum 2012年 ギャラリーヤマグチクンストバウ 展示風景
(中)「monocolor」silkscreen paint on perspex 2014年 NSA noborimachi space art
(右)「うつろなるかたち/踊り場」pigment and casein on alminum 2012年 「うつせみ」展 愛知・常懐荘 撮影:笹倉洋平