トランス/リアル - 非実体的美術の可能性 vol.2 牛膓達夫

牛膓達夫「MKSCR」2016年|真鍮,銅|5.5x30x30cm


2016年5月28日(土)~7月2日(土)
11:00~19:00 日月祝休 入場無料


Transparent / Space ― 牛膓達夫
梅津元


 「トランス/リアル」と題された企画の第一幕は、現代における彫刻の可能性を問う、牛膓達夫の展示によって、第二場へと転じる。牛膓の芸術の振幅を示す作品群が、ギャラリー空間に響いている。揺れ動く知覚を意識しつつ、まなざしを透明に保ち、目の前の物体へと視線を注ぐ。芸術作品という物体の配置を眺めているのではない。「見ること」によって、物体が醸し出す空間が感受され、芸術経験の奥深さが開示される。だからこそ、その物体が芸術作品と呼ばれるのである。(このことを明言しなければならない状況には危機感を覚える。)
 近現代美術の展開において、彫刻という領野には、絵画的視覚の三次元空間への流入、立体・インスタレーションの流行、身体系・映像系・建築系の台頭など、次々と嵐が襲来した。その結果、物質感、量塊性、行為の痕跡など、彫刻の属性(と思われてきた徴候)がことごとく吹き飛ばされ、その領土は荒地と化した。これらの属性に由来する彫刻(と見えたもの)は、まるごとどこかへ飛ばされ、風に耐えうる重さと固さを備えた「かたまり」が散見される荒地には、新種の「彫刻のようなもの」が徒花のように咲き乱れた。
 牛膓の作品は、嵐によって素材感や物質感を剥ぎ取られ、平滑で、軽く、人工的な感覚へと脱皮を繰り返してきた。フレームのような構造、面を立ち上げる作法、メッシュ状あるいは光を通す素材の使用が顕著になる一方で、鉄、銅、真鍮などの金属を用いた、彫刻らしさを湛えた制作も継続している。牛膓の作品は、実体的・存在論的な彫刻とも、仮設的・環境的な立体とも異なり、彫刻の属性が吹き飛ばされてもなお残る「彫刻的なもの」をすくいあげてきた。だからこそ、牛膓は、風を推進力に変えて嵐をかいくぐり、その中心のエアポケットに到達できたのである(このエアポケットは牛膓の述べる「ドーナツの穴」と近似している)。
 牛膓達夫の作品に見られる「Transparent/Space=透明/空間」という特質を象徴する「エアポケット=穴」は、「物体が配置される空間」、「作品としての空間」、そして「芸術が経験される空間」を、透明なレイヤーのように重ねあわせ、共鳴させる回路として機能している。その機能が、穴を「見ている」のではなく、穴の「中にいる」感覚をもたらす。研ぎ澄まされたその感覚が、物理的な透過性と視覚的な透過性の共鳴に鋭敏に反応する。そのとき、透明な無風空間の只中で、彫刻というメディウムの現在形としての「彫刻的なもの」を提示する牛膓達夫の作品から、「非実体的美術の可能性」が鮮やかに浮かび上がってくることだろう。


▊牛膓達夫 ごちょう・たつお ▊
1958年新潟県生まれ。1986年武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。
主な個展に2014年「ひとつ、ふたつ、そして」(メタル・アート・ミュージアム、千葉)、2012年「ひとつ、ふたつ」(gallery21yo-j、東京)、2006年(ギャラリー21+葉、東京 2003他も開催)、2002年(人形町エキジビットスペース・ヴィジョンズ、東京)、1998年(かわさきIBM市民文化ギャラリー、川崎)など。主なグループ展に2015年「ABST OCTOBER」(ヒノギャラリー、東京)、2013年「スパーク」(高崎市タワー美術館、群馬)、2009年「音・色・かたちのポリフォニー」(スタジオSK、東京)、2008年「ACKid 2008」(キッド・アイラック・アート・ホール、東京)、2004年「新潟の美術2004」(万代島美術館、新潟)、2002年「美と創造の散歩道」(釧路芸術館、北海道)、2001年「ABST 空間の理性」(ヨコハマポートサイドギャラリー、神奈川)他にABST展など多数。

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(左)「ビッグスツール」 2012年 鉄・アクリル樹脂 「ピカモン」 2012年 鉄・アクリル樹脂 「en」 2012年 鉄・ナイロン   gallery21yo-j 撮影:森岡 純
(中)「ふたつと多数」 2014年 鉄・ウレタン塗装・アクリル樹脂 430×600×205cm METAL ART MUSEUM HIKARI NOTANI 撮影 / 加藤 健
(右)「人孔」 2012年 鉄・アクリル樹脂 240×69×69cm gallery21yo-j 撮影:森岡 純