exhibition

αM2016『トランス/リアル - 非実体的美術の可能性
Trans / Real: The Potential of Intangible Art 』

キュレーター:梅津元(埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)

 

 

トランス/リアル -非実体的美術の可能性 梅津元

 タイトルの「トランス/リアル」は、「Trans of the Real」というフレーズに由来する。「Trans of the Real」というコンセプトには、「アート・オブ・ザ・リアル」(ニューヨーク近代美術館, 1968年)と「アンチ・イリュージョン-手続き/素材」(ホイットニー美術館, 1969年)というふたつの展覧会に表出した美術動向についての考察が深く関わっている。前者は、美術におけるモダニズムの展開の大きな原動力であった、「リアルな芸術」への衝動を包括的に示すものであり、後者は、モダニズムの成果と臨界点を体現するミニマル・アート以後の可能性をアクチュアルに示すものであった。このように、「REAL」は「MODERN」と深く関連しているため、このタイトルを「TRANS/MODERN」と読み替えることが可能である。また、「~を越えて」を意味する「TRANS」には、「POST」の意味も含まれているため、このタイトルを「POST/REAL」と読み替えることが可能である。さらに、このふたつの読み替えから、「TRANS/REAL」というテーマには、「POST/MODERN」という問題が潜在していることも理解されるだろう。
 このような総論的な立場のもとに、この企画では、自己完結的な視覚と空間の崩壊を臨界点とするモダニズム以降の美術の可能性を、「非実体的」という概念を手掛かりとして、「トランス(trans)」という接頭語を持つ7つのキーワードを提示しながら探ってみたい。そこでは、モダニズムの時代において議論された表現媒体(メディウム)が、現代の日本における絵画、彫刻、インスタレーション、写真、映像、音など多様な表現手法の作品を事例として、改めて問われている。その意味で、「ポストメディウム」(ロザリンド・クラウス)をめぐる議論が、この企画においては、素材、形式、作品が未分化な媒体を意味する「未メディウム」から、「トランス/メディウム」への展開として探られることになるだろう。
 本企画のコンセプトには、エドワード・ストリックランドが、著書『ミニマリズム:オリジンズ』(1993)において展開した議論が反映されている。同書の射程は、絵画(美術)、音(音楽)、空間であり、「Paint」、「Sound」、「Space」というタームが議論の中心となっている。これに対して、1980年代後半以降の日本の美術を対象とする本展では、以下の案のように、まず、同書の3つのタームを7つのタームに展開し、これを、「トランス(trans)」という接頭語を持つ7つのキーワードと組み合わせて各会期のタイトルを設定している。越野潤:Translucent/Surface、牛膓達夫:Transparent/Space、末永史尚・八重樫ゆい:Transform/Paint、相川勝・小沢裕子:Transfer/Information、伊東篤宏・角田俊也:Transmission/Sound、文谷有佳里:Transonic/Line、田中和人:Transpose/Perception。
 以上、7本10作家の展示によって、「トランス/リアル」というテーマが改めて問われることになる。その過程で、ひとつのメディウムの可能性や限界を越えた探求=垂直方向のモダニズムの深化と、複数のメディウムに関わる傾向=領域横断的なモダニズム以降の諸傾向、その双方を視野に入れた議論が必要になる。つまり、このふたつのメディウム論を、対立項としてではなく、同一の地平においてとらえるために、作品の物質性/非物質性よりも、享受の経験における実体性/非実体性に注目する「トランス/メディウム」という概念が重要なのである。本企画では、メディウム論の射程にとどまらず、表現が生み出される一連の過程を「装置」や「回路」としてとらえる立場から、「トランス/リアル」というテーマを照射しつつ、「非実体的美術の可能性」を論じてみたいと考えている。

 

キュレーター
▊梅津元 うめづ・げん▊

埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学。
1966年神奈川県生まれ。1991年多摩美術大学大学院修士課程修了。同年より埼玉県立近代美術館に学芸員として勤務。専門は芸術学。担当した主な展覧会(共同企画を含む)「〈うつすこと〉と〈見ること〉-意識拡大装置」(1994)、「1970年-物質と知覚もの派と根源を問う作家たち」(1995)、「ドナルド・ジャッド 1960-1991」(1999)、「プラスチックの時代|美術とデザイン」(2000)、「アーティスト・プロジェクト:関根伸夫《位相-大地》が生まれるまで」(2005)、「生誕100年記念瑛九展」(2011)など。近年の寄稿:「モダニズムのハード・エッジ」『ABST』6号(2011)、「反転する皮膜-《位相-大地》を奪還せよ」『関根伸夫 RE-CREATIONS 1970/2011』(鎌倉画廊, 2011)、「山中信夫-プロジェクション装置としてのピンホール」『マンハッタンの太陽』(栃木県立美術館, 2013)、「〈方法としての言語〉による〈思考の発露〉」『MAPPING』3号(2014)、「Sound of the Real 3」『引込線2015』(2015)など。

 

助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)