2010年6月5日(土)~7月10日(土)
photo: apple, PET bottle, water and string, 6.15×6.15×18cm, 2009, (C)Yuta HAYAKAWA 撮影: 加藤健
早川祐太の代表的作品には、たとえば2009年にワコウ・ワークス・オブ・アートで発表された《about us》 がある。薄い平面のようなものが宙に浮かんでいる作品だ。一本のワイヤーで吊るされているように見えるのだが、しかし、そのワイヤーは明らかに重心にはなく、不思議な場所にある。いったいどうバランスは取られているのだろうか。そう思ったとたん、作品から目が離せなくなり、引き寄せられ、釘付けにされ、じっと見続けざるをえなくなる。
でも、何を見るのだろうか。この装置の、装置としての仕組みや巧妙さだろうか。宙に浮かんだ平面は、四角形のような厳格な幾何学形ではなく、まるで水面のような不定形な広がりを見せる。そしてそれは、宙のなかを漂い、揺れ動き、静止することはない。空中のなかを静かにゆっくりと動く水溜り。われわれは、浮遊し、たゆたう物体の姿を、まさにその現象のなかに見る。目が離せなくなるのは、この現象のほうからなのである。
まず、じっと見る。自分の眼前にある現象をこそ、凝視する。すると、我々の認識が、ある境界線を越えるように感じられてくることがある。早川祐太の作品の力 の源は、すべてここにある。今回の作品《The moon is a big rock》では、水の広がりと、水面に浮かぶ輪を、われわれはじっと見つめることとなる。水は、本当にさらさらの水なのだろうか。実はもっと粘っこい液体 が使われているのではないのか。輪はどうしてどこかに流れて去ってしまわないのか。でも、どうしてそう見えるのか。見ればすべてが分かるということは、 やっぱり無いのだ。見ればみるほど、視覚も認識も混乱せざるをえなくなる。その混乱のなかでこそ、われわれの観察眼はさらに鋭敏になり、研ぎ澄まされ、自分たちのいる世界をもっと見極めようとする。もっともっと、よく見なければならないのだ。物体を、ではなく、現象を。
そうだとすれば、作品として 提示されているのは、もはや物体ではないのだろう。物体が置かれている空間が作品となる。だが、それはインスタレーションの作品になるというのは、いささか異なる。早川の作品は、決して展示空間を変容させはしない。そこに流れている空気、風、時間、あらゆるものの佇まい。こういった現象の生(なま)のままの姿が、作品と立ち現われてくるのである。立ち現われてくるまで、われわれは、もっともっとよく見続けなければならない。
▊早川祐太 はやかわ・ゆうた▊
1984年岐阜県生まれ。2010年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了予定。日常の身近な現象を、ひとつの装置へと拡大せ、その現象の認識を問う作品を制作し続けている。主な展示に、2010年「5th Dimension」フランス大使館(東京)、2009年「from/to#5」WAKO WORKS OF ART(東京)、「Re:Membering – The Next of Japan」Alternative Space LOOP(ソウル、韓国)など。