絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.5

「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう」 vol.5 小西紀行

Crazy for Painting vol. 5 Toshiyuki Konishi

2012年9月21日(金)~10月20日(土)
September 21, 2012(Sat.) - October 20, 2012(Sat.)

11:00〜19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free

ゲストキュレーター:保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
Guest Curator: Kenjiro Hosaka (Curator, National Museum of Modern Art, Tokyo)

オープニングパーティー:9月21日(土)17:00–19:00
アーティストトーク:9月21日(土)19:00–20:00
小西紀行×保坂健二朗
Opening party: September 21(Sat.) 17:00–19:00
Artist Talk: September 21(Sat.) 19:00–20:00
Toshiyuki Konishi × Kenjiro Hosaka

《untitled》2012年|油彩、キャンバス|145.5×112cm


愛を家族に(そして絵画に)宿らせるための小西紀行の試み

保坂健二朗

小西紀行は画家である。そんな彼がモチーフにし続けてきているのは、人だ。それも、基本的には彼自身の家族だ。
とまとめてみると、次のような疑問がきっと生じることだろう。なぜ彼はいまどき絵画において家族などを描くのか。人を描くにしても、多義的な(あるいは不可解な)物語をつくってその中に入れ込むのが流行りの昨今、あの描き方ってはっきり言ってダサくないのか。
これについての答えを私なりに言えばこうなる。そもそも、絵画というメディアそのものがダサいのだ。そして形式と内容を一致させるという芸術の基本を考えれば、ダサいテーマはむしろ絵画にとって好ましい。
だが、ひとつ注意すべきことがある。「家族」とは、ここしばらく、社会科学の領野において、つまりこの社会にとって、最重要課題のひとつであるということだ。
家族とはなにか。その答えは、時代によっても社会によっても異なるが、今ここ日本で確認しておくべきは、山田昌弘など多くの社会学者が指摘するように、戦後の日本で、恋愛結婚に基づき形成された「近代家族」が、実際には身体的な性差による分業体制を基盤としており、結果として、家族の中からコミュニケーションを欠落させてしまっていたという事実だ。言い換えれば、愛という名の下に女性は搾取され続け、と同時に、沈黙を好む愛を至上の価値とするがゆえに、コミュニケーションは阻害されてきた。そうして今日のちょっと絶望的な日本の社会がある。いささか短絡的ではあるものの、ここではとりあえずそうまとめておこう。
もちろん、新しい関係性の在り方が最近注目されたり提起されたりしてはいる。たとえば「親密圏」(齋藤純一)。あるいは「友人主義」(佐藤和夫)。そのどちらも興味深い概念であり実践である。しかしだ。これまでの生活を、あるいはそれこそ「家族の歴史」を否定できるほど強い人間はそういないという事実にも充分に目を向けるべきだろう。そして小西は、どちらかと言えば、誤解を恐れずに言えば、弱い人間である。
彼の絵を見てみると、そこに出てくる家族が、いかにも家族的であることに気づく。たとえば父親に子供が馬乗りになっている。あるいは母親が子供を抱いている。実はそこには暴力性が潜んでいるとか、実は両者は無関係なのですとか、そういういかにも現代美術的なトリックなどない。直球勝負。The家族写真。触れあったり、触れ あうくらいに近づいて並んだりしている。ただひとつ奇妙なところがあるとすれば、背景の処理である。それは、写真を絵画にするという単純な機能のみならず、文脈の剥奪という効果を持つ。言葉を介さないコミュニケーション、スキンシップによるコミュニケーションに、自然とフォーカスが当てられる。
言うまでもなく、子供が(あるいは小西が)成長するにつれて、そのような「幸せ」なコミュニケーションは家族の中では成立しなくなる。家庭から会話は少なくなり、しかし子供は外で他者との間に性愛を育む。だがやがて、理想的な家族を見出していたつもりのそのふたりも、多くの場合は同じ轍を踏む……
だからこそ近代家族に代わるモデルとして、性愛ではないコミュニケーション、具体的には言葉に基づく「親密圏」や「友人主義」が提起されているわけだが、しかしそうした時に忘れられているものがある。触覚や身振りといった身体的な感覚だ。そして、言ってみれば小西は、自らの絵画作品の中で、言葉とは異なる、性愛でもないコミュニケーションの方法を検証しているのではないか。
興味深いことに、そんな小西の絵に、変化が訪れている。そこから生まれるのは、単に新しい作品、新しい絵画というだけでなくて、新しい「家族」像であるのではないかと勝手に私は期待してしまっている。

▊小西紀行 こにし・としゆき▊
1980年広島県生まれ。2007年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。主な個展に 2009年「個として全」(ARATANIURANO、東京)、2008年「千年生きる」(カフェ小倉山、横浜美術館、横浜)、2007年「人間の家 ver. MAGIC ROOM ?」(magicroom ?、東京)など。主なグループ展に2009年「neoneo展 Part1[男子] 」(高橋コレクション日比谷、東京)、2009年「VOCA展2009」(上野の森美術館、東京)、「Long Season」(Michael Ku Gallery、台北)、「Emotional Drawing」(SOMA美術館、ソウル)、2008年「Oコレクションによる空想美術館-magical museum tour 第6室『赤羽史亮・小西紀行の部屋-new new painting』」(トーキョーワンダーサイト本郷、東京)、など多数。パブリック・コレクション:ピゴッツィ・コレクション。

(左)《無題》2008年|油彩・キャンバス|65.2×53cm|Courtesy of ARATANIURANO,
(中)《無題》2007年|油彩・キャンバス|194×130.3cm|個人蔵|Courtesy of ARATANIURANO,
(右)《無題》2009年|油彩・キャンバス|27.3×22cm|個人蔵|Courtesy of ARATANIURANO,

アーティストトーク 小西紀行×保坂健二朗