トランス/リアル — 非実体的美術の可能性 vol.6
Trans / Real: The Potential of Intangible Art vol. 6 Yukari Bunya: Transonic / Line
2016年12月17日(土)–2017年2月4日(土)
[冬季休廊:12/25–1/9]
December 17, 2016(Sat.) – February 4, 2017(Sat.)
[Winter Holidays: December 25–January 9]
11:00–19:00
日月祝休 入場無料
11:00–19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free
ゲストキュレーター:梅津元(埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)
Guest Curator: Gen Umezu
アーティストトーク:12月17日(土)18:00–
文谷有佳里×梅津元
Artist Talk: December 17(Sat.) 18:00–
Yukari Bunya × Gen Umezu
オープニングパーティー:12月17日(土)19:00〜
Opening Party: December 17(Sat.) 19:00-
助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
《なにもない風景を眺める》2016年
「トランス/リアル」は、第一幕「トランス/モダン」3部作(第1回〜第3回)、第二幕「ポスト/リアル」カルテット(第4回+第5回)を経て、第三幕「トランス/リアル」ダブル・ミーニング(第6回+第7回)を迎える。現実(リアル)を直接表現することは不可能であり、世界を把握するために要請されるのが、媒体(メディウム)である。ここで、現実(リアル)が、超現実(スーパー/リアル)、極超現実(ハイパー/リアル)として立ち現れる時、モダニズム的規定を更新する「トランス/メディウム」の可能性が示唆される。
文谷有佳里の作品を初めて見た時の衝撃は忘れ難い。ギャラリーのオーナーから、作者が作曲を学んでいたことを教えられ、その特異な線の出自を直感した。以来、正方形への取り組み、色彩(赤)の導入などの試みを含めて、基本的なスタイルは変化せず、より深化している。第二の衝撃は、文谷の公開制作中に遭遇した(註)。展示室に置かれた作業机で線をひく文谷に観客が質問する。文谷は、何事もないように答え、会話を交す。手がとまることも、作業の速度を落とすこともなく。線をひく作業が、会話とまったく干渉していない。手と目と脳が直結し、線をひく作業が身体化されている。自動筆記=オートマティスム的でもあるが、偶然性や神秘性に流れず、楽器を弾くトレーニングの成果に近いと感じた。
このふたつの衝撃から「線の速度」や「Sonic Drawing」という言葉が浮かび、subsonic/亜音速、transonic/遷音速、supersonic/超音速、hypersonic/極超音速、などから、transonicをタイトルに採用した。その過程で、sub/real(亜現実)、trans/real(遷現実)、super/real(超現実)、hyper/real(極超現実)という作業仮説が生まれた。これは、第5回で示した「Sound of the Real」に由来する「Trans of the Real」とは異なる系譜からも、「Trans/Real」というテーマが導かれることを示している。「トランス/リアル」ダブル・ミーニングとは、このことを意味している。
文谷の作品において、支持体は、まずは一般的な物質として認識されるが、文谷が線をひくにつれ、そのテクスチュアが後退し、物質性の希薄な透明な空間が出現する。その空間において、ミクロな作業がマクロなスケールへと拡張する瞬間、比喩ではなく、「線の速度」が「音速」に接近する。音速への接近=遷音速(transonic speed)が、「音の壁」を生むことにならえば、文谷の作品は「線の壁」を生む。透明な空間に浮遊する線は、作品の完成にともない、支持体=背景と不可分な「線の壁」として出現し、衝撃をもたらす。現実世界に実体として存在する具体物に帰属しないという意味において、「線の壁」は、「不透明に実体化した壁」ではなく、「透明なままの非実体的な壁」である。
文谷は、線を描く。見る者は、目の前の線を追う。「Transonic/Line」という時空間において、見る者は、いつしか、文谷の描く線の速度に乗る。transonic/遷音速、supersonic/超音速、hypersonic/極超音速、線の加速に身を任せる。やがて訪れる、非実体的な「線の壁」の衝撃。その衝撃の只中で、モダニズムの更新が体感される時、trans/real(遷現実)は、super/real(超現実)、hyper/real(極超現実)として立ち現れることだろう。
註「ポジション2012 名古屋発現代美術〜この場所から見る世界」名古屋市美術館、2012年
▊文谷有佳里 ぶんや・ゆかり ▊
1985年岡山県生まれ。2008年愛知県立芸術大学音楽学部作曲専攻卒業。2010年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。
主な個展に2014年「文谷有佳里展」(ガレリアフィナルテ、愛知)、2013年「文谷有佳里̶往来する線 Between Line and Drawing̶」(茅野市美術館、長野)、2013年「なにもない風景を眺める:赤と黒」(Gallery Jin Projects、東京)など。主なグループ展に2015年「第8回岡山県新進美術家育成I氏賞選考作品展」(岡山県天神山文化プラザ、岡山)、「群馬青年ビエンナーレ2015」(群馬県立近代美術館、群馬)2014年「第17回岡本太郎現代芸術賞展」(川崎市岡本太郎美術館、神奈川)、2013年「VOCA展2013現代美術の展望─新しい平面の作家たち」(上野の森美術館、東京)、2012年「POSITION2012名古屋発現代美術~この場所から見る世界」(名古屋市美術館、愛知)など。
(左)《なにもない風景を眺める》2015年|ink on paper|60.0×60.0cm
(中)《なにもない風景を眺める》2015年|ink on paper|22.7×22.7cm
(右)《なにもない風景を眺める》2015年|ink on paper|22.7×22.7cm
アーティストトーク 文谷有佳里×梅津元