『東京計画2019』vol.5 中島晴矢 東京を鼻から吸って踊れ

Plans for TOKYO 2019 vol.5 Haruya NAKAJIMA Sniff Tokyo, and Dance

2019年11月30日(土)~2020年1月18日(土)
November 30, 2019(Sat.)-January 18, 2020(Sat.)

11:00~19:00/日月祝休 入場無料
[冬季休廊 12/26-1/6]
11:00-19:00 Closed on Sun., Mon.,
Holidays and December 26-January 6
Entrance Free

ゲストキュレーター:藪前知子(東京都現代美術館学芸員)
Guest Curator: Tomoko Yabumae (Curator, Museum of Contemporary Art Tokyo)

オープニングパーティー
11月30日(土)18時~19時
Opening Party: November 30(Sat.) 18:00-19:00

アーティストトーク
11月30日(土)19時~
Artist Talk: November 30(Sat.) 19:00-


没入し都市に抵抗せよ:中島晴矢論

藪前知子(東京都現代美術館学芸員)

オリンピック前夜の東京を舞台に発信してきた連続展覧会、「東京計画2019」の最後を締めくくるのは、中島晴矢の個展である。彼はその多面的な活動を、オルタナティブな領域を社会に確保するという一点により串刺しにしてきた表現者である。文学部で日本近代文学を学びつつ美学校に通い、シェアハウス「渋家」創設に関わり、映像、造形など多岐にわたるメディアを扱うアーティストとしてだけではなく、ヒップホップ・ユニットのMC、俳優、文筆家、キュレーターなど複数の顔を持って活動の領域を広げてきた。東日本大震災以降、オルタナティブな空間やコミュニティが社会において重要度を増す中で、東京を拠点にその活性化に関わってきた一人である。
東京近郊のニュータウンを原風景とする出自から、中島の作品のひとつの特徴は、一見無機質な都市に身体的に介入し、その陰影を描写することにある。代表作である「バーリートゥード in ニュータウン」のシリーズは、多摩ニュータウンや千里ニュータウンなど、日本を代表する郊外の風景の中で、本人が覆面レスラーに扮し、ひたすら移動しながら何でもありの闘いを行っていくものだった。コンクリートの上で繰り広げられる捨て身のファイトを見ているうちに、いつの間にか前景と後景が反転し、演劇のセットのような現実感のない風景と、目の前の異常事態に見て見ぬ振りをして行き過ぎる人達が主役として立ち現れてくる。これは「暴力」ではなく「格闘技(とその撮影)」なのだ、というフィクションに現実を侵食された心性が、ニュータウン全体を覆うものとして浮かび上がるのだ。
ここで注目したい中島作品のもう一つの特徴は、そこに多くの場合、自らの行為に没入する人物が登場することだ。今回の出品作では、新国立競技場の周りをひたすら走るシリーズ作品の新作《Shuttle RUN for 2021》や、都庁と思しき立体を砕き、その粉を丹下健三の「東京計画1960」のプランの上に広げて鼻から吸う《Tokyo Sniff》がそれだ。その反復運動は、人物の身体の内部に確かに変化をもたらしているのだが、私たちはそれを共有することができない。1964年のハイレッド・センターの見事なパロディである《TOKYO CLEAN UP AND DANCE!》においても、黙々と清掃する人々は、整備されていく東京の表面をなぞるだけである。(付け加えれば、取り壊されるビルの、テープを貼られた窓《Close Window》も、その閉鎖性と不可視性から、これらの人物のメタファーとして見えてくる。)これらの個の内部の共有不可能な変化が、強大な力によるスペクタクルな都市の変化――近代の亡霊――への批評として対比的に表れることに注目しよう。本展の要となる「普請中」と刻まれた礎石は、森鴎外の同名の小説からの引用である。この物語で描かれているのは、いまだ「普請中」である東京を背景にした、かつて恋人だったふたりの心の距離である。この他者に共有されない個の内面の動きを、情動、さらには自発性と呼び替えてみたい。「ハイになって踊る」という、現在の東京の文脈における法の逸脱のメタファー、あるいは遊女の「自殺」(《Tokyo Suicide Girl Returns》)は、自発的な個人の選択の極点を私たちに鋭く問いかける。玉音放送(《EED》)に象徴されるような共同体の単一的な経験に抗い、耳も目も閉じて、ただ「鼻から吸って踊れ」―—。本展は、他者に侵犯されない、真に自由な個の領域を、中島晴矢が全霊を賭けて東京の一角に刻み込んだ記録である。

 

▊中島晴矢 なかじま・はるや▊
1989年神奈川県生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業、美学校修了。
美術、音楽からパフォーマンス、批評まで、インディペンデントとして多様な場やヒトと関わりながら領域横断的な活動を展開。 主な個展に、「バーリ・トゥード in ニュータウン」(TAV GALLERY/東京 2019)「麻布逍遥」(SNOW Contemporary/東京 2017)、「ペネローペの境界」(TAV GALLERY/東京 2015)、「上下・左右・いまここ」(原爆の図 丸木美術館/埼玉 2014)、「ガチンコーニュータウン・プロレス・ヒップホップー」(ナオ ナカムラ/東京 2014) キュレーションに、「SURVIBIA!!」(NEWTOWN2018/東京 2018) グループ展に、「TOKYO2021 美術展『un/real engine ―― 慰霊のエンジニアリング』」(TODA BUILDING/東京 2019)「変容する周辺 近郊、団地」(品川区八潮団地内集会所/東京 2018)、「明暗元年」(space dike/東京 2018)、「ニュー・フラット・フィールド」(NEWTOWN/東京 2017)、「ground under」(SEZON ART GALLERY/東京 2017)
アルバムに、「From Insect Cage」(Stag Beat 2016)、連載に「アート・ランブル」(太田出版)など。
HP: http://haruyanakajima.com

2019_nakajima_2.jpg

(左)「麻布逍遥」  2017年 video|18ʼ 40”
(中)「Shuttle RUN for 2020」  2017年 video|7ʼ46”
(右)「バーリ・トゥード in ニュータウン」  2014年 video|24ʼ 21