TEXT - ギャラリー・トーク 西山仁 × 堀元彰

2002年10月5日(土)


■媒介者たち・・・「生きて活動していれば必ず何かを媒介してしまう」

堀: 7月に板谷奈津さんの展覧会が終了致しまして、今回の西山仁さん、12月に田添かおりさん、それから来年の3月にタニシKさんという計4作家の連続の個展という形で、本日はその第2回目になります。最初は特にその4つの展覧会に脈絡をつけろという要請はなかったのですが、自分なりに今関心がある作家を4人集めて脈絡を考えて、媒介者たちという言葉を付けました。この言葉が適当だったのかは分からないのですが、今のアートについて考えてみると、人と人とを繋ぐというような形の作家ということで、この4人に共通項があるかなと考えました。その説明はあまり僕もしていなかったのですが、「媒介者たち」という言葉は、西山さんはご自分の作品、作家活動から考えてみてどのように感じられますか?

西山: 自分の作品が何かを媒介しているというよりも、自分で何かをやっていれば、自然と人と繋がってしまうから、あまり媒介するということを意識していなかったです。

堀: ああ、例えば、西山さんが、絵を描いたり彫刻をしたりするのとは少し違って、彫刻といっても家具のような彫刻、人が座ったりできるという部分と多少関係があるのですか?

西山: どうでしょう、あまり関係はないと言えば、ないですね。強いて言えばどんなものを作っていても自然と人と関わってしまいますし、自分の意志とは関係なく関わってくるものだから、生きて活動していれば必ず何かを媒介してしまうのだと思います。

堀: はい、あと僕の方では最近いろんな現代美術、90年代、特に後半以降の現代美術の中で、国際的にもアートというものと衣食住というテーマが、大きな関わりを持って来ていると感じていています。例えば、東京オペラシティアートギャラリーで開催されたリクリット・ティラバーニャ展では、「食とアート」、或いはアンドレア・ジッテルは衣料あるいは「住空間とアート」という関係が見られます。自分なりに考えてみると、これも偶然なのですが、7月の板谷奈津さんがノーパンカフェということで「食」、それから今回の西山さんはファニチャー、家具ということで「住」、それから次の田添さんがテキスタイルの出身で「衣」の部分で、それから最後のタニシさんが「トラベル」、旅とかレジャーというような設定で、これは衣食住3つの要素が絡んでくるような形でもありますし、その総合でもあります。衣食住から見て、こういったファニチャーを作るということを、どういう風に考えていますか?

西山: 僕が自然に生きているということは、どうしても衣食住という問題に当たってしまいますね。まあ衣食住の中で衣に関しては、僕は無頓着ですが。

堀: まあそれは凄く自然なことでもありますし、日常のことだから普段は気に留めないということもあるかもしれないですね。

西山: 気に留めない、といえば嘘ですが、毎日のように気に留めすぎていて、もう考えなくても自然とそういう風になってしまっているからだと思います。食事は、毎日自炊していると「なんでこんな毎日毎日作らないといけないのだろう。」と思いますね。昼間は作品を作って、それから3食、食事作って、それらはどうしても切っても切り離せないものだなという実感はありますね。だから、どうしても作るものも衣食住に関係してしまうんですよね。 


■Summer Recess・・・「せっかく面白い窓があるんだから何か使わない手はないだろう

堀: 今回この展覧会で、西山さんに是非参加してもらいたいなと思った一番の理由は、去年、初個展が銀座のナガミネプロジェクツというギャラリーで行われて、それをたまたま会期中見る機会がありまして、凄くある意味、インパクトを強く打たれたからなんですね。多分ここにいらっしゃる多くの皆様はご覧になっていないと思いますので、今日はその会場風景の映像をお見せし致します。

(ビデオが流れる。トロピカルな音楽の流れ、ランドスケープファニチャー、テレビのモニターのような窓から道路が見える。)

堀: 今のビデオを見ていただいて、とてもよく分かったと思うのですが、会場に窓があるので、時間の変化によって会場の雰囲気が大分変わってくるんですね。それから、音楽も今日後で演奏して頂く、山辺義大さんの音楽が(会場に)流れていました。会期は去年の7月~8月で、展覧会のタイトルが「Summer Recess」、夏休みというタイトルなのですが、この名前はどういういきさつで付けられたのですか?

西山: それは、僕の自分自身の夏休みの過ごし方のようなリラックスした空間を作ろうということです。

堀: 普段、あそこのナガミネプロジェクツは銀座、コリドー街という飲食店が集まってる所の雑居ビルの4階にありまして、そこの窓から首都高が見えるのですが、そこにガラスの仮設壁を作ってガラスの板をはめると、モニターの画面を見ているような感じがするんですね。時間の変化に伴って、日が差しこんだり、当然、夕方は暗くなりますし…。あそこの空間で窓もモチーフにして展示をやろうと思ったきっかけは何かあったのですか?

西山: やはり、窓から見える景色が面白いから。それを見たいからというのもありますね。

堀: 単純に彫刻やものを置くだけではなく、ですか?

西山: そうですね。ものを置くだけでもいいと言えばいいのですが、せっかく面白い窓があるのだから、使わない手はないだろうと思いましたね。

堀: 実際、ナガミネに展示されていたものは、ここの僕らが座っているこのソファーなんですね。凄く繊細な作品で、その繊細さは今回のインスタレーションでも感じられます。西山さんは展覧会の経験というのは去年の初個展とそれからもう1つ、今年の5月から6月にあった「Beautiful Artist」というグループ展で、これが3回目、個展としては2回目ですね。

西山: はい、そうです。 


■Beautiful Artist・・・「アーティストからアーティストへどんどん転々として、それがメッセージの伝達ですよね。」

堀: 2階のスペースに「Beautiful Artist」の写真が置いてありまして、ちょっと一枚場違いな感じというか(笑)、一瞬、お客さんの中には「何の写真だろう?」と感じられるかと思います。時代仮装行列のような風景ですけれど、何でしょうか?少し説明をしていただけますか?

西山: あれは…僕の友人であり、僕が美術をやるきっかけとなった人でもある、曽根裕という作家がアメリカに住んでいまして、ニューヨークのテロの事件があった後、アメリカに居たため、世界中の友達と全然連絡がとれなくなってしまったそうなんです。彼はその時、今、アーティストが何か行動を起こさなければならない、と思い立って、自分の持っている作品を用いて自分のアトリエでインスタレーションして、友達のところにそれをパッケージにして送ったんです。それがずっとアーティストからアーティストへと、転転として、最終的にメッセージの伝達へと繋がったのだと思います。作品が届いたらそれをまた来た人のアトリエに持って行き、展示をして、また次の人に渡して、という風に。それが今年の5月山口まで続いたというわけです。今でもまだ山口のどこかで廻ってるんですよ。

堀: うん、あの写真はそのオープニングの時にやった、仮装パーティー…と言ったら怒られますかね?(笑)

西山: いや、仮装パーティーですよ。作家があつまって記念写真を撮るところで、どうせなら面白くしようということになりまして、時代劇のコスプレ風の記念写真にしました(笑)。

堀: 西山さんは写真では小さくしか写っていなくて、分からないかもしれませんが、お姫様姿の曽根裕さんと、西山さんの侍姿…非常によくお似合で写っていらっしゃるんですね(笑)。

堀: 展覧会の会場は料亭だった場所なんですよね?

西山: そうですね。こういった古い日本風の建物が会場になったので、時代劇のコスプレ風、記念写真を撮ろう、ということになったんです。

堀: そういういきさつがあったんですか。

司会者: ここは、普段、料亭に使われているのですか?

西山: 前は料亭に使われていて、今はもうその役目を終えて、…今は使われていないと思います。

司会者: この展覧会では西山さんの他にどなたが出品されたのですか?

西山: そうですね、全部で10人弱くらいで、主にアメリカと日本の作家です。この人たちに、曽根裕の作品が順々に送られていきました。まず曽根裕のアトリエが一番右、次にメグ・ベリチックというNYのアーティスト、その次にこれが僕のところなんですが、その次がロスで活動しているアーティストの、ジェダダイア・シーザー、(ケート・カステロを経て)その次に渡されたのがロスに住んでいる日本人アーティストで下花麻衣さん、それから、NYに渡って今度はグレッグ・シェパードという人からNYでマシュー・ポルハムスに行きまして、次に、日本の小粥丈晴&雄川愛というコンビ、それで最後に山崎美弥子。そこでは初めて会った人ばかりでしたね。

堀: 曽根裕さんはみんなを知ってるけれども、個々の作家はお互いにあまり知らないんですね。

西山: 曽根さんが、一応キュレーションをしているわけですから、彼の知り合いのアーティストがほとんど集まったんですね。この記念撮影には結局4時間、5時間は掛かりましたね。こうやって撮りながら、なんかコイツが隠れてる、などと言い合いながら、全員が入るように撮影しました。

堀: (笑) 


■天空・・・「恐らく英語にちゃんと訳すことができないような、美しい日本語。」

堀: それでは、今日の展示ですが、実際ものとしての作品は今こうして僕らが座っているソファー、司会の光井さんが腰掛けている椅子、それから後ろにある棚。この3つの作品と、写真、ドローイング、映像と、それからスモークという要素が加わるんですね。

西山: そうです。この空間には映像も少し流れてるんですよ。

堀: 非常にデリケートな展示で、映像の方は日が沈んで少し見えてくるかと思います。それと特に、スモークというのがデリケートで、今日はこれだけ人がいらっしゃると空気が動いてしまってベストな環境で見られないとは思いますが、どういうものか、みなさんに是非、体験していただきましょう。

(会場にスモークが流れる。)

西山: 来た来た。来た来た(笑)。…空気を目に見える形で展示するにはスモークしかないなと思いまして。

堀: スモークが床一面に充満して、そこに映像が上から映りこむというようなインスタレーションで、今回の展覧会のタイトル、「天空」ということと繋がるのですが、その「天空」という言葉について説明をお願いします。

西山: 天空という言葉は、辞書で引くと、大空と書いてあるのですが、僕は恐らく英語にちゃんと訳すことができないような、美しい日本語だと理解しています。「天」という言葉と、「空」という言葉は両方とも日本という以前の古代、大和の時代からあった古い自然観を表す言葉で、壮大で、深い意味合いをもった言葉ですね。

堀: ただ「空」や「空気」という言葉では表しきれないのでしょうね。

西山: そうですね。だから、言葉で一概に言い表せないような展覧会というのは、まさにそういうものではないかと思いますね。

堀: ファニチャーとか棚は、プライウッド(合板)を積み重ねて、また削ったりして形を作っているんですね。後ろから見ると、凄くそれが一瞬、山肌のように感じられます。今回、このソファーのところにスモークが広がってくるのは、その山に霧が掛かるとか、雲が掛かるというイメージですか?

西山: そうですね。山に登ったり、飛行機に乗ると、雲海が見えますよね。その時、雲海の中から山がぽこっぽこ出ている、そういった風景が非常に好きです。

堀: 西山さんは海も好きだけれど、山もお好きなんですか?

西山: 好きですね。まあ、自然が好きなんでしょうね。

堀: 海が好きな人と山が好きな人は普通、分かれるような気もしますが、西山さんはよく海でサーフィンをされるそうですけれど、その辺、海と山の違いを感じることはあまりないですか?

西山: 違いは…海の方が行きやすいですね。山の方が遠い。僕の中ではそれくらいの区別ですかね。

堀: それは今、西山さんは藤沢に住まれていますから(笑)。海も山も1つの大きな自然として、同じフィールドに広がっているんですね。では、こういう合板という素材を使って制作したのは、やはり自然を大事にするという意識や考えが、かなり働いているんですか?

西山: そうですね。はい。

堀: みなさん、できればですね、だいたい夕方5時くらい…日が落ちてきた頃にいらっしゃると、一番よい状態でスモークと映像を楽しめると思います。この映像は実際に、ご自分で撮られたんですよね。どんな映像ですか?

西山: 朝日が昇るところと、月の映像、それと飛行機に乗って雲海を見ている映像です。この展覧会で映像を入れているというのは、映像作品を見せるという意識ではなく、インスタレーションの1つの要素として映像が加わっているのです。

堀: そうすると、スモークの雲の上にまた雲の映像や月の映像が映るんですね。

西山: はい、そうですね。 


■制作・・・「洞窟みたいな棚があったら面白いな」

司会者: 私から西山さんに2、3質問をさせていただきます。今日いらしたお客様から聞かれたのですが、ファニチャーがどうやって作られたのかということです。先程、お話にもありましたけれど、これは実際、アトリエで1人で作られるのですか?

西山: そうですね。1人で作りました。

司会者: 制作にはどれくらいの時間が掛かりますか?

西山: 平均的に1ヶ月くらいですね。作り始めたらなるべくそれに集中するようにしてますが、そうもいかない事情が色々ありまして、結果的に1ヶ月くらいで完成したという感じですかね。

司会者: 完成の目標に向かって作られているのでしょうか、それとも作っていたら結果的にこの形ができ上がったのでしょうか。

西山: それは両方有りまして、最初はこういった形を作ろうというイメージがあって、でも作っていくうちにその形は当然変わってきますから。その両方のイメージからでき上がっていきます。

司会者: 例えば今回作品が3つありますが、シェルフに関しては何の形を目標になさったのですか?

西山: あれは、洞窟のような棚があったら面白いなということで、スケッチをしたり、模型作って、それから実際作り始めました。 


■空間・・・「写真だけで見えてしまったら、別に展示を見に来なくたっていいじゃないか。自然の要素を何か盛り込みたい。」

堀: 西山さんは、初個展のナガミネプロジェクツの時も、凄く空間というものを意識して作られていたと思います。今回、ギャラリーTOMは普段、目の不自由な方の為に、触ることができる彫刻の展示をされているんですね。建物は内藤廣さんの初期の建築なのすが、この空間で今回の「天空」のインスタレーションをするにあたって意識された部分はありますか?

西山: 特に意識した訳ではないです。この中の空間を見て、上からも作品を見ることができる、でも壁や天井はあまり弄ることはできないだろうな、と色々な条件を考えて全体的にどうやったら面白い事ができるか考えました。

堀: それと、僕が思うのは西山さんの作品の特徴として、写真で見ても分からない、勿論、写真で見れば何が展示してあって、どういう空間であるか分かるのですが、それだけでは伝えきれない部分が必ず存在しますね。その辺、敢えてそういうものを入れようとしているのでしょうか?それとも自然に入ってしまうのでしょうか。

西山: それはですね。結構、敢えて入れようとしてる部分もあるんですよ。写真だけで見えてしまったら、別に展示を見に来なくたっていいじゃないか、という気もしますし。あと自然の要素を何か盛り込みたい。自然の要素というのは、毎日天候や、時間によっても全然違いますし、そういった要素はどこかに入れたいと思っています。それが、ナガミネの時は窓の外の風景、今回はスモークですよね。

堀: 他に、音がありますね。鳥のさえずりの声が映像と一緒に聞こえてくるんですよね。

西山: 空間の中を考えると、やはり、音を入れた方が時間の流れが明確にわかるのではないかと思いまして、音を入れました。

堀: 以前、美術手帖の作家紹介で、僕が短いテキストを書いたときに、西山さん自身が「時間を彫刻する」という言葉をお使いになりましたね。それは作品の中に時間といういうものを取り込むような行為ですね。単純に制作時間という点でも、時間が刻まれていくと考えることはできるかと思います。

西山: そうですね、制作時間が現れてくるのが彫刻なんだと思いますね。

堀: 出来上がった作品を見ることによって感じられる、制作時間の流れですね。

西山: やはり、観る人はどのくらいの制作時間が掛かったのだろうと考えるじゃないですか。そういった時間というものが自然と作品の中に入ってくるのだなと、制作を重ねるうちに気づくようになりました。