岡部: 今日は大勢の方々にご来場いただきありがとうございます。今回は床に置く作品が多いので、もっと前につめて頂きたいのですが、残念ながら後のほうで立って聞いて頂いている方々も多く、本当に申し訳ございません。私のキュレーションは2005年春から2006年春までの1年間で、今回が最終回となります。今まではだいたい二人の展覧会がおもでしたが、最後ですし、豪華にと思いまして、三人の作家をお招きして展覧会を開くことにしました。トークに出席してくださっているのは、辛酸なめ子さんの名前でみなさんよくご存知の池松江美さん、もう一人がうらうららさんです。残念ながらこのリーフレットにある小泉明郎さんは現在アムステルダムのライクスアカデミーというところでアーティスト・イン・レジデンスをなさっているので、帰国できなかったのですが、映像作家なので、トークの最後にご挨拶という形で、挨拶というよりは作品になっていますが、ここのモニターで小泉さんからのメーッセージをご紹介します。
参加なさっている三人のアーティストに共通しているのは、ラディカルなアプローチをしているという点で、池松さんは去年セレブというテーマで個展をなさり、今回の例えばこのセレブ養成マシーンはそのときからの発想を発展させて完成なさった新作です。参加型の作品ですので、靴を脱いでマシーンに乗って頂けるようになっていて、スライドの上映を観ながら、セレブになるトレーニングができます。詳しくは池松さんから直接ご説明を受けたいと思います。うらうららさんの作品はテラコッタ、陶でできています。この真ん中にある作品などのでっぱりは、足にぶつかるとポキンと取れてしまいますので、パーティがトークの後にありますけれども、足元には十分気をつけて頂ければと思います。陶ですから、どうしてもフラジャイルで壊れやすいのです。壁面にはうらさんの大小のドローイングも展示してあります。では最初に、池松さんお願いします。その次にうらさん、バトンタッチしてください。
池松: 今日はお集まり頂きありがとうございます。今日の作品の説明をさせていただきたいと思います。まず、セレブへのオマージュということで、なんか、まぁあこがれもあるんですけど、そのセレブの生き方みたいなものを自分で疑似体験することで、自己啓発的な効果を得られてテンションがあがってくるという作品です。まず、そちらの写真がIVYというセレクトショップでも去年展示したんですけれども、よく欧米のゴシップ雑誌にセレブがパパラッチに撮られたりしているのを再現したもので、セレブの日常のシーンを自分で演じてみました。まず、ショッピングで、ブランドの袋とか持ってたりするんですけど、なぜかスタバのカップを持っているセレブが多いということに気づいて、それも持ってロスとかでショッピングをしているイメージですね。あとは、セレブが最も輝く場所、レッドカーペットの上で立っているイメージの写真と、ヨガが流行っているので、たまには自分の内面を見つめる時間というのもセレブにとっては必要かと思いレッドカーペットと兼用の赤いヨガマットの上で瞑想しているシーン、そしてセレブは恥ずかしげもなくノーブラでジョギングをしがちなので、セレブ御用達のiPodをたずさえてキャップを被って走っているシーンも撮影しました。
このセレブ風写真がまず一つ目の作品で、あとはそちらの壁にTシャツがあるんですけど、IVYとコラボレーションした、『セレブリティ・アニマルTシャツ』です。よく最近のセレブの写真を見ていると、片手にチワワとか小動物を抱えている写真がすごい多いんですよ。例えばパリス・ヒルトンは、確かチワワを可愛がってて、それからさらにキンカジューとかいう珍獣を飼って、あと日本にこの前来日したときもチワワを2匹、六本木のペットショップで買ったりとかしています。他のセレブも、ヒラリー・ダフ、ブリトニー・スピアーズ、ジェシカ・シンプソン、みんなそれぞれ子犬を愛玩していていつも連れ歩き、片手に抱いて写真に収まるというのが流行っているようなので、あのTシャツは、着れば愛玩動物を片手に小粋な感じで持っているように見えるという作品ですね。ちなみに、チワワの他にはひよことかモルモットの写真があるんですけど、ひよことモルモットは、荒川の土手の動物ふれあいイベントみたいなので撮りました。その広場では動物は撫でるだけとか言われてたので、こう持ち上げて係員の人に怒られたりとか、ちょっと苦労があった作品です。
他には壁のほうにいくつか作品があります。一番左にあるのが『インスタントセルライト』というシールです。セレブは食生活のエンゲル係数が高くて脂肪分が多いのか、割と若い人でもセルライトがすごいできてるんですよ、太ももに。それを全然隠さないで堂々としているので、逆にそれがかっこいいような気がして、インスタントセルライトのシールを付ければ、自分をそういうセレブと同じ豊かな食生活を送っているというのをアピールできるという作品です。
あとはそうですね、『セレブサングラス』という作品なんですけど、ちょっとリーフレットの写真だと分かりにくいかもしれないんですけど、パパラッチが狙っている様子が反射してるようにサングラスの眼鏡の部分に写真がはめこんであるので、これをかければ、周りにたくさんのパパラッチがいて狙われてるセレブにみえるという作品です。
それから、車にかつらが付いている作品があるんですけど、これは『My Little porsche』という作品です。アメリカではマイリトルポニーというおもちゃが流行っていて、子どもが、馬にブロンドのたてがみやしっぽが生えたちっちゃいポリエチレンとかの人形をよく可愛がって、髪を梳かしたりして遊んでいるそうです。そこから着想を得まして、馬は乗り物ですし、車も乗り物ということで、金髪が生えたポルシェを可愛がることによって、高級車に慣れ親しむと同時に、将来自分がそれに乗っているイメージを潜在意識に刷り込むことが出来て、気づいたら願望が成就し、将来セレブな生活が送れている……という狙いで作ったイメージトレーニングのおもちゃです。
トレーニングといえば、この『セレブ養成マシーン』という作品では、セレブオーラを発するコツを体得することができます。セレブのオーラが出るときはどんな時かと考え、パーティなどで人間ウォッチしていたら、セレブは周りの人より自分が優れているというふうに優越感を抱いた瞬間に、オーラが出るっていうことに気づいたんですよ。なので、あのウォーキングマシーンは、まず、下がレッドカーペットになっているんですけど、レッドカーペットの美しい歩き方を練習しながら、前のスライドで、優越感を感じずにはいられないシーンが映し出されているので、それを観ながら、レッドカーペットを歩く練習をすれば、セレブオーラの出し方のコツみたいなものが身に付くんじゃないかというものです。あと他にも細かいものがあったりするんですけど、大体そういう感じです。
岡部: 次にうらさんですが、うらさんは今年修士課程を終えられて、4月から武蔵野美術大学の彫刻の博士課程に進学なさる予定です。では、どうぞ。
うら: じゃあ簡単に僕の作品の説明をしたいと思います。基本的な関心事は、僕と僕の身近にいる女の子との恋愛っていうか、コミュニケーションとかの問題です。まずこの『Ogijimamegijima』という作品から説明したいんですけど、これは、僕ラブコメが大好きで、恋愛漫画とか少女漫画とかのよくあるキスシーンがあって、キスシーンのあとにつばがこう糸ひくじゃないですか、その糸をひいたものがキラッとしていて、すごく綺麗だなと思って、それが恋愛の象徴っていうか、そんなふうに感じてたんですね。恋愛は、今の時代では信仰に近いもののように思えて、何故かというと、相手の気持ちが分からないのにhowto本みたいなのがあって、どうやれば相手の気持ちが得られるのかとか、そういうのがいっぱいあるのがバイブルみたいな感じに思えて、何の根拠もないのに、そういうふうに至る方法がマニュアル化されているのとか、それなしじゃ生きていけない人がいるのがなんかもう信仰にみえて、僕もその恋愛教みたいなものの信者の一人なのですけど、信者として拝む対象が欲しいというか、拝む対象としてのイコンみたいな感じで作品を作っています。恋愛教の一つのイコンというか、これをみて拝むと何かいいことがあるみたいな感じでやっています。
その後ろの青い『The boy is unstable, the girl is always active.』という作品も似たような感じのものなのですけど、僕自身が女の子になりたいっていうのが結構ありまして、両性具有というわけじゃなくて、自分のメンタリティを持ったまま女の子になって、ちょっとエッチとかしたらどんな感じなのだろう、みたいなことと、形態としては昔からロリコン、ロリコンって言われているので、どうもそういうのが個人的には好きみたいなのですけど、女の子になるっていうのを視覚化しようとすると、逆に女の子になれないことがすごくクローズアップされてきて、憧れの気持ちがさっきの恋愛信仰じゃないけど絶対的というか、永遠に至れないというふうになってきて、それも信仰の対象になるのではないかなと思って、それも拝んでいる感じの作品になっています。
真ん中の頭が三つくっついている作品は新作ですけれど、皆さんご存知かもしないのですが、舞城王太郎の『阿修羅ガール』という小説、その中で、アイコちゃんという主人公とグルグル魔人という殺人者が阿修羅を作るんですね。阿修羅を作ることで、信仰っていうか、別に本人は全然そういうものを持っていなくても、その行為を通じて悟りを開いて、やっぱ愛だね、っていうような感じで終わるのです。で、僕もとりあえず作ってみて「やっぱ愛だなぁ」と言いたいなぁって思っても、あんまりそうはならなくて、『阿修羅ガールは愛を語らない』っていう作品タイトルになっています。僕の個人的な思い出も入っていまして、高校時代の友達と友だちが好きだった女の子と僕がモデルになっていて、お互い色々エピソードがあり、思いが通じ合わないものだなっていうので、じゃあ、頭がつながっていればきっと大丈夫だったのでは、みたいなことから、作品を作ってみました。
岡部: 今のうらさんの話は「妄想」というエッセイでこのリーフレットの中に詳しく書いてありますので、後で読んでみてください。池松さんは今回のうらさんの作品をご覧になって、どういう感想を抱かれましたか?
池松: モチーフもとてもおもしろいのですが、マチエールなど細部にもこだわって念をこめて丁寧に造っている感じがします。唾液が糸を引いている作品は、男女の営みの生々しい部分が出ていて、恋愛のおぞましい感じが伝わってきます。三人がドッキングしている作品は、フランスの恋愛映画の人間関係を連想しました。最近ハチクロブームで美大の青春が注目されていましたが、ムサビの男女交際の乱れみたいなものは作品に反映されているのでしょうか?
うら: そうですね。僕すごく学園ライフが好きで、もういい年になっていて、学生やってるんですけど、それはもう本当ラブコメが周りに溢れています。
池松: あっ、やっぱりそうなんですか。
うら: それがもう何かたまらない状況です。
池松: あぁ、じゃあ黙々と作品をつくっているうらさんに憧れて影からみてる女の子とかいるんですか?
うら: いや、いないですけど…。
池松: いないんですか……。
うら: でもそういうのがあったらいいなぁとか結構妄想していて。学校の側に玉川上水があるじゃないですか。
池松: はい、薄暗く延々と続く道ですね。
うら: その玉川上水を一人で制作が終わったあと歩いていて、僕の好きな子が、二人で歩いていて、てくてく俺が先に歩いて、袖を掴んで「ちょっと、歩くの、速いのだけど」とかいう。で、「あ、そう?」みたいなこういうシチュエーションが・・・。
池松: あ、そういう願望というか妄想がこもってる?
うら: はい、こもってます。
池松: たしかに、この作品からそういう感じがビンビン伝わってきます。妄想の結晶ですね。おろそかにできない感じがします。壊したら何か不吉なことがおこりそう。
うら: はい。
池松: 愛について考えながら焼いてるっていうことなんですよね?これ焼き物なんですよね?
うら: はい。
池松: 思いを錬り込んで、黙々と焼く……まじない的な創作活動ですよね。作品はイコンみたいなものという話だったんですけど、これを拝んで何か本当にいいことがあったのかっていうのは?
うら: いやぁ、あんまりないんですけど、正月とか神社にお参りしてもあんまり良い事ないように。
会場: (笑)
池松: あっ、そうですかね。
うら: はい。
池松: 作品に賽銭箱とかはつける予定はないんですか?
うら: ははは、そうですね。・・・置いた方がいいですかね?
池松: そうですね、そしたらご利益をもたらしてくれるような気が。
うら: そうですね。(笑)
池松: こういう立体作品の制作というのはどのくらいかけて、一つを作るかんじなのでしょうか?
うら: 結構時間はかかります。大体、一個作るのに2ヶ月か3ヶ月くらいかかりますね。工程が複雑で、粘土で原型を作って中空洞になっているのですけど、焼き物って中にいっぱい詰まっていると上手く乾燥しないで、焼けないので、それが結構面倒くさい感じですね。
池松: 私はグラフィックデザイン科だったので、ほとんど課題は家に持って帰ってやるという感じで、全然スクールライフというか青春は無かったんですよ。だから、つなぎ姿でキャンパスで作業している彫刻科の人とか油絵科の人とかを見て、羨ましかったんですけど、やっぱり全然違うものなんですかね?
うら: そうですね。結構みんなで同じ場で作業することがあるので、高校の延長みたいな、クラスの延長みたいな感じで、しかもわりと苦労があって共同作業があるので、恋愛が芽生えやすいっていうのがすごくいいかな、と。あっ、僕はあまり関係ないのですけど。
池松: あ、そうなんですか。
うら: はい。何か僕はそれを見て、妄想しているっていう感じです。彫刻系の子たちは結構真面目な子が多くて、素朴な人が多いので、どっちかっていうとデザイン系の方が乱れている?(笑)
池松: あっ、そうですか!
うら: です。はい。
池松: 私は特に関係なかったんで、乱れとは。
岡部: 今度はうらさんの方から、池松さんの作品へのご感想はいかがでしょうか?
うら: 僕すごくミーハーなので、辛酸さんは結構前から知っていたのですけど、これちなみに辛酸さんの新刊で…
池松: あ、新刊ではない・・
うら: あ、ではない(笑)。しっかりサインを貰っているんですけど、今回の展示が決まったときも、僕サインを集めるのが趣味で、「あ~、辛酸さんのサインがもらえる」って思って一番嬉しかったんです。普通セレブとかを作品にして皮肉った感じでやると、そういうことをしている人がばかばかしいよ!みたいなことを言っているふうに思うのですけど、辛酸さんの作品はそうじゃなくて、本人も本当にセレブに憧れているみたいな感じがある。普通だったら、「え、どっちよ?」、「どっちなんだよ!」ってつっこみたくなるのですけど、白黒はっきりつけなくてもいいじゃないか、白黒はっきりつけるのが格好悪いっていう感じを作品から受けます。例えばこの本の中でも出てくるのですけど、「JJやCanCanに載っているようなアフターファイブは、二の腕と足を露出して合コンに励み金持ち男をゲットするカリスマOL」みたいに書いていて、「で、結婚にこぎつけたら次は家庭画報のようなアッパーライフが待ってる」。こういうふうに書くと、ばかばかしいと思って、脱構築っていうか、臆するような感じになるのですが、そこに本当の憧れがあって、何かもうつっこめないっていうか、最初からつっこめない存在で、そのつっこみに対する準備も万端、何かもう無敵な感じがします。最近の例で言ったら、安藤美姫がオリンピック前はすごく有名でチヤホヤされていたのに、帰ってきたら荒川静香になっていて、それを見た人たちが、「あんなに安藤美姫、美姫言っていたのに、荒川静香になって、なんだよ、マスコミ!」というつっこみをすることも最初から予想されているみたいな、だからつっこみをすること自体格好悪いみたいな感じを受けて、「間」っていうか、それが何か日本的な感じがして、あぁなんかもうすいません、みたいな感じです。
池松: はい。ありがとうございます。そうですね、やっぱり実際なんで自分は白人に生まれなかったんだろうとか思ったりとか、お金持ちと外資系商社マンとかの生活が羨ましいなぁとか思ったりして、そうですね、だからその複雑な気持ちみたいなものが出てるかも知れないですね。
岡部: みんなが共通して持っている欲望のようなものと、それが達成できないというストレス。そういうものが目にみえない形で溜まっていくような心理を、特に日本の場合はそういう面が強いと思うんですけど、辛酸さんは目を反らさずにちゃんと直視して、ご自分のことも合わせて直撃し、ある意味では治癒するというよりは完璧な手術をしてしまうみたいに、回復させてしまう。それで、辛酸さんの本を読んだり、あるいはオブジェをみたりしていると、皆さんも気が軽くなったり、回復力というのか、治癒力以上にその人自身を再生させてしまうような力があって、浄化の力、カタルシスを与えてくれるのだと思います。で、それはやっぱりアートであるからで、良いアート作品はどんなものでもそういうパワーを持っているのではないでしょうか。うらさんの作品にはグロテスクな側面もありますが、ある種の聖的なところ、神聖な感覚が、辛酸さんに非常に近いのではないかと思い、一緒に展示をさせていただいた訳です。
岡部: お二人に私からの質問ですが、小泉さんの映像をご覧になっての感想、ご意見を伺えればと思います。
池松: なんか激しくこすってるじゃないですか。多分日本の人が出てたらかなり気まずい感じというか、生々しくなってしまうと思うんですけど、外国の人が出てることで芸術的な感じが増している気がします。
岡部: 今回出品した二つの映像は、両方とも出演者が何かをこすっているイメージで、池松さんが話されているのは、『Art of Awakening』という外国人の方々がオナニーをしているようなシチュエーションの映像のほうだと思いますが、見え見えでジーンズをこすっている『Hardcore』に出演しているのは、小泉さんご自分です。
池松: あ、そうなんですか。キャラクターも含めてアートですね。
うら: 外国人の性生活とかって、どうなっているのだろうってちょっと思って。
池松: あ、はい。
うら: 今アダルトビデオがすごく豊富だから、やっぱちょっと違いますよね。
池松: あっ、そうなんですか。
うら: いやっ、あははは(笑)。
池松: よく見比べてるんですか。
うら: いやっ、僕はビデオ派じゃないので。
池松: ビデオ派じゃないってことは、何派なんですか。
うら: 言うのですか?はは。あの何か単調っていうか…。
池松: あぁ、そうですよね。決まった形に添って進んでるみたいな。
うら: でも日本も最近結構みんな同じような行動になりつつあると思うのですけど、もうちょっとねとってしているのかなっていう感じがして。でも小泉さんは日本人だから、そのバランスがなんかちょっと不思議っていうか、どうなんだろうみたいな。
岡部: 2点あるんですけれども、セックスライフというよりは両方に共通してるのはマスターベーションかな。同時に、見えないものを想像させるということを、映像を見ている人に強いながら、みんなにエロティックなことなども想像させるのですが、最後にはかならずその仕組み自体を暴いてくれる。ばらしてくれるというオチがついているところが小泉さんの親切なところです。だから最後まで見て頂くと、つねに仕組みが分かるようになっています。今回の三人展のテーマが「セクシーポリティクス」だったので、外国の男性たちが登場する『Art of Awakening』は、この展覧会のために作ってくださった新作です。小泉さんの他の映像には、政治的な要素を含むものもあり、別のタイプで興味深い作品もたくさんあります。ビデオなので、上映会プログラムにも数多く参加されてますが、パナソニックがメセナで貸してくださったこうした大きい高画質モニターでじっくり観られるように、しかも二点を並置した形で展示したのは、初めてかもしれません。
岡部: 恋愛談義はすでに作品との関係でしてしまったのですが、今回の場合、会場の方からいろいろ質問があるんではないかと思い、すぐに会場の方からの質問を受けましょうというふうに三人で前もって話をしていましたので、今来たばかりで作品を観てない方もいらっしゃるかと思いますけれども、これまでのお二人の話を含めて、質問を受けたいと思います。最初に手を挙げるのは勇気がいるかも知れませんが。はい、そうぞ。
観客1: あのセレブ養成マシーンのプロジェクターに写っている画像って隠し撮りなんですか?
池松: 隠し撮りと言ったら差し障りがあるかもしれませんので、明言は避けます。こっそり撮影しているつもりでも相手にはバレてることが多いかもしれません。(セレブ養成マシーンのスライドを見て)あ、これは右翼の人が立ちションしてるシーンです、一般参賀の日、皇居の近くで撮影しました。そしてこれは節分のときの豆まきの写真とか、松下整形塾で掃除している人とか、健康ランドの休憩スペースで寝転んでいる人とか、一人で立ち食いそばを食べている人とか……。ここ2、3年に撮った中で、見た人の優越感をくすぐりそうな写真を75枚くらい選びました。
観客1: ありがとうございました。
観客2: ちょっと下の話で申し訳ないんですけど、あちらの写真のTシャツでジョギングしている写真はあきらかに付け乳首だと思うんですけれども、以前もシャインニップルという乳首にこだわりを持った作品を作ってらっしゃいますけど、何か乳首に対する強い思い入れとかってあるんですか?
池松: そんなにこだわりはないですね。このつけ乳首は自分で作ったものなんですけど、思い入れというよりも外国では全然そんなにやらしいという風に思われていないのに、日本だとそれを見た瞬間、男性がすごい欲望のスイッチが入るみたいな、で、逆にこっちが意識してしまっているっていう感じですね。いやらしいと感じる人こそいやらしい、と思っています。
岡部: 男性の視線と女性の露出度のかかわりは、文化によってすごく違うと思うんですけど、たとえばイスラム圏に行くと、赤いスカートをはいて外に出ただけで、強烈な眼差しで見られたりして、こうしたことは日本とヨーロッパでも違うし、フランスとアメリカでも全然違いますね。他に何か。
観客3: セレブ紙相撲って、写真の大小は辛酸さんが独断で?
池松: 『セレブ紙相撲』はさっき説明し忘れたんですけど、セレブの写真を切り抜いて、紙相撲ができるようにしていて、あの写真の大小がそのまま扱いの大小に比例するというふうに説明に書いたんですけど、私が決めたというよりも、その雑誌が決めたというか、それをそのまま、欧米のゴシップ雑誌の全身写っているものを切り抜いて厚紙に貼っているので、特に自分の独断は入ってません。
岡部: 池松さんと会田さんがトークをなさったことがありますよね?その時会田さんが、「池松さんは皇居にも必ず新年に行かれたりとかしていて、ロイヤルファミリーファンみたいなところがあるんですよね。あとセレブファンでしょ?でもこういうのは二つとも眉唾じゃないかな」と会田さん言ってましたね。如何でしょう?
池松: そうですね、眉唾というよりもそういうセレブとか皇居とか両方ともすごい開運効果があるんですよ。うらさんの恋愛のイコンとかも、もしかしたら共通してるかも知れないんですけど、そういう私もポップスのヒットしてるCDしかここ何年か買ってなくて、そういうデビューしたばかりのアメリカのアイドルとかが本当に声とかにポジティブなパワーというか希望がみなぎっていて、それを繰り返し聞くことで、自分も擬似的に成功の歓びみたいのが得られ、聴くだけでポジティブな思考回路がインプットされていって、運気が上がっていくという効果があると思います。皇居もほんとにそれと同じようなもので、お正月の一般参賀に行くと、あの辺は結界がはられていているのか、空気の清らかさも違いますし、一応神の子孫の天皇ご一家を拝むことでも、神々しいパワーみたいなものを得られますね。あと実際今年一般参賀に行ったときは、雨が降っていたんですけど、天皇が出てきたとたんに雨がやんだりとか、そういう神秘的な出来事も起こりました。
うら: 恋愛に関する信仰で僕が一番信じているのは、広瀬香美の「ロマンスの神様」で、あの「ロマンスの神様」って、広瀬香美が大沢たかおをゲットしたわけじゃないですか、だから僕もそれを信じていて、そのご利益にあやかれたらいいなっていうのは結構意識していますね。
池松: じゃあ、その曲も結構歌われてます?
うら: 冬になったらかかっていますよね。でも今年は少なかった感じがするけど。スキー場とかに行くと必ずかかっていて。しかもご利益があるなんて、何かいいなって。
池松: うらさんもカラオケでそういう歌を?
うら: いや、ちょっと高いのでダメなのですけど。まぁ、はい。
池松: そうですね、やっぱり暗い曲ばっかり聴いてると本当に暗くなっていっちゃうような気がしますよね。
岡部: 今サイトで池松さんが書かれている日記によると、最近は素敵な家具をたくさん買い集めているというか買い続けている感じだそうですが、以前からそうしたデザインオブジェに興味があったのでしょうか?今回のご引越しのために必要になって、そういう欲望が起きたのでしょうか?
池松: 今までは無印良品とか、通販のすぐ壊れる家具とか、あと、ホームセンターで買ったカラーボックスに囲まれる生活を送ってきて、でも年齢的にずっとこの家具を一生引きずるのはちょっとまずいんじゃないかと思いまして、安い店でもそれなりにお洒落なものを手頃な値段で売ってるんですけど、家具って一回買っちゃうと、なかなか捨てるチャンスもないですし、腐れ縁の安い家具を一生使い続けるよりは、ここで思いきって良い家具を買って人生をリセットしたほうがいいかなと思って。あと、埼玉出身だからか、おしゃれなものに憧れがあって、どうしてもおしゃれな空間に住まなければという強迫観念にかられて買い狂っています。
岡部: 皆さんも辛酸さんの日記、読んでいらっしゃると思うんですけれども、何十万円といった購入価格まで書いてあって、「わぁ、すごい!」と思ったりしました。うらさんは住んでる場所へのこだわりなどはないのでしょうか。
うら: 僕は西荻窪に住んでいるのですけど、伊集院光とみうらじゅんの『D.T.』っていう本があって、それで東横線沿線に住んでいるのはモテ男で、中央線沿線に住んでいるのはオタだ、みたいな感じで、そのオタなオーラが一番充満しているのが西荻窪と高円寺と阿佐ヶ谷なんじゃないか。だから、そういうところで青春をおくっていたので、そんな感じですかね。はい。
観客4: お二人とも本名なんですか?
池松: そうですね、わりとアートの活動をするときは本名で、それ以外のアートとか小説のときはペンネームを使っています。うらさんは姓名判断が趣味だそうで、勝手に人の名前の運勢を調べて…。
うら: そうなんですよ。僕も、うらうららにしたのは、ものすごく字画がいいので。本名はちょっと健康運が悪いみたいなので、内臓系がやられるみたいな…
池松: それは嫌ですね。
うら: 今も胃が痛いのですけど。それから少しでもプラスに、こう。それで辛酸さんの早速調べたのですけど、辛酸なめ子はもう最悪。
池松: あ、そうなんですか。でも宗派によって全然ちがいますよね。
うら: はい。でも池松江美がものすごく良くて、さすがちょっと違うな、と思いました。
岡部: うらさんは改名したのが最近だったものですから、プレスリリースでは前の本名が出てしまっていて、一つの雑誌にプレスリリースの名前とうらうららの改名が両方出てたりして、混乱させております。
観客5: 展覧会自体とあまり関係ないんですけど、結構イコンとしてものを作っているというか、イコンとしてあるんですけど、もの、物体が持つ特殊性については、どのように考えて制作したりするんですか。
うら: ご質問は、どうして彫刻か、みたいな感じとはちょっと違うのでしょうか?
観客5: いや、陶であったりとか、箔を使うとかっていう…。
うら: 最近結構良くそういうことを考えているんですけど、さっきも話したみたいに僕すごく妄想の人間なので、例えば恋愛とかしていても、玉川上水を歩いていて後ろから手を引かれて、みたいなもので満足しちゃうっていうか、妄想する対象は僕が勝手に作り出したもので、本人とは全然違うわけじゃないですか。で、その本人とは全然違うっていうことだけど、本人との関係をもうちょっと重視したいみたいな欲求が僕の中にあって、簡単にいうと、オナニーよりはリアルセクースみたいなのを求めて、わりと触覚的っていうかイメージにならない、妄想にならないように使うっていうことです。だけど、ものが出来てくるとき、色んな工程を経るのですけど、色を塗ったりして作っていく最終的に調整する段階で、色を塗るのは僕の中ではわりと平面的な作業で、どちらかというと妄想に近い。出来たものをまた妄想側に引き戻すっていうか、そういう効果を狙ってやっているのです。通じますか?ダメですか?
池松: 作品に作られている女性の顔とかはやっぱりタイプの顔とかでは?
うら: こっちは僕なのですけど、向こうの作品とかも両方僕をモデルにして作っているのですけど、こっちは一応モデルがいて。・・タイプかなぁ?
池松: 男性は自分のタイプの顔を描く人が多いように思いますが、それとは違うのですか?
うら: あ、でも目の離れてる子は結構好きなんですよね。でも、作るときは似せることは考えてないので。パーツ、目だったら目がどうなってるんだろ、っていうところだけとってるんで、出来上がったものは、タイプかな・・ちょっとよく分からないですね。
岡部: 本当は新作を池松さんのイメージで作ってみようと、最初うらさんしていたのです。でも途中からやっぱりやめようということになったのは、どうしてですか?
うら: それは池松さんの写真を見ると正面が多くて、それでちょっと立体をおこしていくのには、はい。
池松: 横顔はあまり自信が……。ところで結構複雑な過程で制作されているんですよね。3Dソフトで作ってるんですね。
うら: そうです。モデリングは、直接本物のモデルは使わないで、3Dのモデリングソフトを使ってます。モデルやって、そこから形をおこすっていう感じでやっています。
岡部: 今度側面からの写真があったら、いつか池松さんのイメージが出てくるかもしれないですね。
池松: 立体スキャンとかって最近ありますよね。
岡部: 他に質問がなければ、小泉さんのビデオを見たいと思います。
―ビデオ上映中―
岡部: こういう強烈な作品になっております。これから一時間ほどパーティがございますので、直接お二人にお話をお聞きください。今日はどうもありがとうございました。
(テープ起こし:戸田歩)