1989年11月21日~12月16日
柳健司の今年の作品は、従来の作品イメージを大きく転換した内容になっている。それは今年展示されたふたつの個展作品(ヒルサイド・ギャラリー、秋山画廊)で明らかだが、共通点はいずれも着彩していることである。
このうちヒルサイド・ギャラリーでの個展作品では、室内で人が中に入れるほどの大サイズの直方体を展示し、屋外で縦長の、中に階段状のかたちを納めた直方体を提示していた。いずれも彩色(イエロー)されており、前者は隙間のない面で囲まれた直方体、後者は逆に面を取り払い、骨格だけで直方体のかたちを成した。素材はいずれも鉄である。
それに続く、秋山画廊個展では、画廊空間のなかで、角材によって矩形のフレイムをつくり、空間が大きくふたつに分かれるように設置した。角材に塗られた色彩は赤であり、浅いグレーの画廊空間のなかではとりわけくっきりと目立つ。ただし、ここでは面的な要素は乏しく、空間はふたつに大別されるとはいっても、相互に閉鎖的なものではない。
さらに、角材による大きな矩形のなかに、入れ子状に小さな矩形が設けられており、これが相互の空間を結ぶ出入口のような役割を果たしていた。
従来の作品と大きく異なる、彩色という点を除けば、今年の二個展作品でもほぼ“身体”を基としたスケール感が反映されている点では共通しよう。
柳の場合、この身体によるスケール感は、完全な客体性を回避するモチーフとして援用されているという印象を強くしている。身体と切り離された客体としての作品のありようがクローズアップされることを回避するように作品は成立されようとしているのである。
視覚的には確かな構築体でありつつ、骨格のみで、あとは大胆に空間を抜いてしまうという試みはその意識のあらわれであり、同時に、そのように提示された作品およびその周辺の空間で相互性や周回性をもたせようという試みはなによりもその点をよく物語っている。
ヒルサイドでの個展作品(面による直方体)でも、同様な志向性を視覚と行為の切り口によって示そうとしている。面は単一でなめらかなものではなく、わざと小刻みの凹凸をつけられている。それは行為の指標である(以前の作品では1987年の“TRACE”というシリーズ作品の別のあらわれと見ることもできる)と同時に、視覚的条件のみによる作品の客体性の煮つまり(鈍化)を防御する機能ももっている。浅く、しかも決してマットにはかけられてはいない色彩の塗布のしかたも同様の志向である。
柳健司は、1985年の作品発表開始以来、“CONTACT ACTION”というシリーズでモノとモノの関係の機微に触れ、“TRACE”というシリーズで、モノどうしの関係とそれらの時間化された現象を追い、以降、関係の機微や現象を超えた物体(構築体)のフォルムと存在感を追求する姿勢をとってきた。
今回の作品は、それ以降の展開となるが、従来から志向しつつも、物性や存在感によって見えにくかった作品対象と視覚の問題について新しい切り口を表明しようとしていることは確かである。