『ON THE TRAIL』 vol.2 冨井大裕

2007年10月2日(火)~10月13日(土)


架空の通販カタログには・・

鷹見明彦

冨井大裕の作品に出会ったのは、すでに10年前、1998から99年ちょうど冨井が武蔵野美大彫刻科の大学院を修了した前後だった。


画廊での個展でみた作品は、石膏や木片を白く塗って作った小さな人や家を空間のところどころに配置するといった様子だった。ジョエル・シャピロやアントニー・ゴームリーなどのポスト・ミニマルな作品をおもわせたが、ダブル化した人型の単位を組み合わせたり、壁付けにしたりする様態には、スケールや空間について鮮度のあるアプローチが見られた。審査したコンクールで大賞という結果になったとき、ためらいがあったとすれば、それは日本の彫刻科出身者にみられがちな、因襲的な「彫刻」なるものの自縛だった。指ほどのサイズの石膏人型を蝶番(ちょうつがい)で留めたり、バネや筆先、ほうきの柄の上やキャスターを付けた板、段ボール箱に付着させた一連の作品は、台座とレディメイドを短絡させることで、(古典的な)彫刻に対する批評になっていたが、作法のキレはともかく、いまさらの話と思わせるギモン?は残った。
蝶番だけで人型をつくる作品(2002)ぐらいから、レディメイドを決まったイメージを塑型化する素材に使う関係から、素材やレディメイド自身の側にあるポテンシャルとよく対話して、抽出するという転換がはかられた形跡がある。縦書きの文章のセンテンスの長さにそって材木の手すりを配置した作品、ポストカードの大きさに並べ置かれた鉄線、まるくくり抜かれたアルミ板とその穴に詰まったスーパーボールの集積で自立したキューブ、曲がるストローの絡まりがつくる球体、4色のスポンジをパズルのように組みあげた立体、多色の鉛筆をクリップでつなげて壁に寄りそわせた細長いフレーム、金属の画鋲をびっしりと壁にさすことで生まれた金色の矩形、エアーキャップ(梱包材)を積み上げてできたかたち、全部のマス目に穴が開いたりピンの刺さった原稿用紙や方眼紙、コピー紙で折った紙ヒコーキを重ねてできた取っ手のある白いマッス・・。
〈架空の通販カタログ〉のリストのように、量販店や百円ショップでも手にはいる日用品や素材を組み合わせたり集積して、仮構されるミニマルな立体-。それらはたわむれというには妙に端正で、彫刻というには重みがなく、ポップというにはレトリックが希薄だ。そのあたりにトム・フリードマン、髙柳恵里、豊嶋康子、関口国雄・・といった、とくに国内では依然少ないポスト・ミニマルなすぐれた先行者たちにつづく冨井のスタンスがうかがえる。
最近の個展「世界のつくりかた」(2007)は、配送される組み立て商品のように梱包した作品のユニットが置かれて、観客は掲示された図面と説明書をみて作品を想像する設定だった。

アウトレットや郊外のホームセンターでときに感じる無国籍な寄る辺ない広がり-その〈ものたちの国〉は、人間たちの世界より自由なのだろうか?ものたちは、どんなルールにしたがって、いかなる言葉でなにを話しているのか・・?それらは贈与と交換のツールであることから、どんなズレをもって変成しえるのか。
仕様や性質をよく計られた〈ものたち〉は、また実用をはなれていねいに扱われることで、はじめてその素性の話を自ずから語りはじめるのだろうか。

*美術手帖2002年2月号・特集「ゼロゼロジェネレーション」拙稿

●冨井大裕(とみい・もとひろ)
1973年新潟生まれ。1999年武蔵野美術大学大学院彫刻コースを修了。ギャラリー現、モリスギャラリー、art & river bankなどで個展、グループ展多数。第4回「アート公募」審査員大賞受賞(1999)、「新世代への視点 2006」(東京現代美術画廊会議)選出。「ニュー・ヴィジョン・サイタマ」(埼玉県立近代美術館、2007年12月ー2008年1月)に出品予定。