変成態―リアルな現代の物質性 vol.2
Metamorphosis : objects today vol.2 Motohiro Tomii × Nobuhiro Nakanishi
2009年6月13日(土)–7月18日(土)
June 13, 2009(Sat.) - July 18, 2009(Sat.)
11:00–19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free
ゲストキュレーター:天野一夫(豊田市美術館チーフキュレーター)
Guest Curator: Kazuo Amano(Art Critic, Chief Curator at the Toyota Municipal Museum of Art)
アーティストトーク:6月13日(土)17:00–19:00
冨井大裕×中西信洋×天野一夫
オープニングパーティー:6月13日(土)19:00–
Artist Talk: June 13(Sat.) 17:00–19:00
Motohiro Tomii × Nobuhiro Nakanishi × Kazuo Amano
Opening Party: June 13(Sat.) 19:00–
(上)《Stripe Drawing- Tokushima Sky》2008年|pencil on paper|500×2170cm|撮影:Hidefumi Morimiya|Courtesy: The Tokushima Modern Art Museum|©️Nobuhiro Nakanishi (下)《Wrap(color sample)#1》2008年|vinyl tape, wire|0.6×17×0.6cm|撮影:柳葉大|©️Motohiro Tomii
冨井大裕と中西信洋とはほぼ同世代で、ともに精力的に発表を続けてきているが、関東と関西をそれぞれ主たるベースとしてきていて、これまで一度も会いまみえたことは無い。また一見するならその作品の姿も大きく異なってもいるだろう。ただし、両者ともに「彫刻」を専攻していたというだけではなく、本質的に「彫刻」的思考を遠心的に探ってきたのではなかっただろうか。いかに「彫刻」から遠くに。しかし彼らの作品はその出自での試行経験が基盤となっているだろう。
冨井の作品の多くは既製品を駆使していて、それを加えず、引かず、物のツボを刺すように密かな作業で介在し、そのままにして全く異なる特殊な物体にしている。壁に無数に突き刺した画鋲による擬似的な平面や、エアーキャップの切片の重ねによる、あるいはスポンジの組合せによるマッスのごとき物体。塊のようなもの、あるいは「絵画」とも「彫刻」ともつかないもの。それは既存の物を使用しつつも決して加工せずに、むしろその物のじしんの本来的な機能を保全しながら再利用している。さらにそれは組合せの単位体が明瞭で、解体可能な姿をして在るのである。元の状態に還元可能な姿をわれわれに見せながら、常に恒久普遍の姿は避けていると言ってもいい。それは基本的に、何ものかのイメージにはならずにそのままにして在るのだ。そこには明々白々な陰の無い、オブジェからは最も遠い明るさに満ちているのだ。しかしながらその既存の事物の新たな使用法のごとき造型が不可解なモノに成っているのはなぜだろう。ひょっとしてその白日の謎がこの作家の最も避けていた「彫刻」的なものに近いのかもしれない。
中西の作品も、われわれの観賞を遥動させる。すき間を持って、透視可能な無数の横→縦線によるウォールドローイングは、図と地があやふやで何を見ているのかが確定しない。さらに時間層が折り込まれたレイヤーはさらに複雑な空間となっていよう。さらに箱型の内側に粘土で作った造型の余りの空間を取り出した立体と、ともに展示された透明なガラスによるそのネガポジ反転した造型。それは作家本人によれば、塑像という実体が反転して出てくる造型の経験を起点としているという。それらは、その「彫刻」に内在していたネガポジの関係、身体性の変換という意識が、その後、基本的な空間把握、あるいは世界認識として作家の中で大きく成長した上での試行なのだ。全てが詰まっていない、何かの隙間として見えてしまうという時空間の認識は、様々な作品フォームをとる作家に共通したものなのである。そのレイヤー構造による透明な空間の意識を探る行為は、描きつつ、撮影しつつも空間に解体し溶け出していく感覚をともなうものだという。中西は、直接、中原浩大に接した学生だったが、ここでもある造型をつくりつつも、作品に身体が結び合い外化したような反転した空間性や、物を扱いつつもその駆使の仕方を変えた自在な物の制作の姿勢において共通していた。
日常の物の成り立ちを受け入れ、そこから物の新たな設定をし直し、一挙にその見え、認識を転倒させる冨井。そしてレイヤー状の透明な空間の把握から逆に様々なイメージを素材に展開する中西。二人の造型は対照的だが、その二人の知覚の経験は、実は一つの空間の認識に関わるものであって、設定を変えれば可変的な、物との関係であろう。その作品はさしあたっての組成の姿をここに見せている。作家にとって物は固定した姿を取っていない。むしろ世界をバックにして常に揺れ続ける事象としてある。様々の事物を扱い一つ一つについて言及しながらも、冨井も中西も、常に物の中に深くは入ることを避ける。われわれはその横滑りの渦中で不可視の経験をすることになるだろう。
▊冨井大裕 とみい・もとひろ▊
1973年新潟県生まれ。1999年武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。近年の主な個展に2009年「copy boy」(ギャラリー現、東京)、2008年「企画展=収蔵展」(アーカス・スタジオ、茨城)、「身の回りのものによる色とかたち」(遊戯室[中崎透+遠藤水城]、茨城)、2007年 「世界のつくりかた」(art & river bank、東京)、「みるための時間」(武蔵野美術大学美術資料図書館・民俗資料室ギャラリー、東京)など。主なグループ展に2008年「アートプログラム青梅「空気遠近法・青梅-U39」(青梅織物工業協同組合施設、東京)、2007年「ニュー・ヴィジョン・サイタマ III 7つの眼×7つの作法」(埼玉県立近代美術館、埼玉)、2005年「芸術の山/第0合/発刊準備公開キャンプ/立体編その1」(NADiff、東京)「字界へ―隘路のかたち―」(長久手町文化の家、愛知)など。
▊中西信洋 なかにし・のぶひろ▊
1976年福岡県生まれ。1999年東京造形大学彫刻科卒業。2002年京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。主な個展に2007年「Halation」(ノマルプロジェクトスペース、大阪)、2006年「Saturation」(大阪府立現代美術センター、大阪)、2005年「個展」(INAXギャラリー、東京)、2004年「supplement」(ギャラリーそわか、京都)、2003年「空洞と空白」(ノマルエディション、大阪)など。主なグループ展に2008年「SENJIRU-INFUSION」(Gallery Kasya Hildebrand、チューリッヒ・スイス)、2007年「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展(森美術館、東京)、「Exhibition as media」(神戸アートビレッジセンター、兵庫)「徳島再見」(徳島近代美術館、徳島)、2005年「かわりゆく世界で transformation/metamorphosis」(国際芸術センター青森、青森)、2003年「trans-」(京都芸術センター、京都)など。