トランス/リアル — 非実体的美術の可能性 vol.3

末永史尚・八重樫ゆい|Transform / Paint

Trans / Real: The Potential of Intangible Art vol. 3 Fminao Suenaga, Yui Yaegashi: Transform / Paint

2016年7月16日(土)–8月27日(土)
[夏季休廊:8/7–8/15]
July 16, 2016(Sat.) - August 27, 2016(Sat.)
[Summer Holidays: August 7-15]

11:00–19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free

ゲストキュレーター:梅津元(埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)
Guest Curator: Gen Umezu

アーティストトーク:7月16日(土)18:00–19:00
末永史尚×八重樫ゆい×梅津元
Artist Talk: July 16(Sat.) 18:00-19:00
Fminao Suenaga × Yui Yaegashi × Gen Umezu

オープニングパーティー:7月16日(土)19:00–
Opening Party: July 16(Sat.)19:00-

助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)

左|末永史尚《3つの消しゴム》2016年|合板にアクリル|9×8.5×1.4cm|Courtesy of the artist and Maki Fine Arts|右|八重樫ゆい《untitled》2016年|oil on canvas|22×27.5cm|Courtesy of the artist and MISAKO&ROSEN


Transform / Paint — 末永史尚・八重樫ゆい

梅津元

「トランス/リアル」と題された企画は、末永史尚と八重樫ゆいによる二人展によって、第一幕を締めくくる第三場を迎える。絵画をめぐる状況に対する違和感を背景に企てられた本展では、絵画に対する批評性の発生が目論まれている。絵画という形式に、かつてと同じような機能を期待することはできない。盲目的な形式への追従と表面的な形式の否定は、表裏一体となって、自己目的化した形式のカメレオン的な温存を助長している。現代美術のひとつの流儀と化している概念的な形式操作も、形式を所与のものとする点では同じ限界を抱えており、形式をめぐる生産的な議論に寄与することはできない。このような状況においては、手探りで形式を立ち上げることへと向かう(ように見える)営為こそが、形式の変容を通じたスリリングな芸術体験をもたらすのである。(このことを明言しなければならない状況には危機感を覚える。)
このような立場から、「Transform=形式の変容」というテーマを掲げ、末永史尚と八重樫ゆいの二人の作家を招いた。注目したのは、二人の作品に共通する、「Paint=面を塗る」という極めてシンプルな特徴である。この「Paint=面を塗る」という営為には、形式を与えられたものとせず、自らの手と目を駆使して作品を生み出すことへの意欲が漲っている。二人の作品に漲る、明快にして深度を湛えた緊張感は、作品を他者と共有可能な存在として成り立たせるためのルールやシステムを、作品の外にではなく、作品に内在するように鍛えられた、それぞれの方法に由来している。
末永は、絵画の形状にとらわれず、三次元の物体として実現されるタイプも含め、面を塗る行為によって形式の変容を顕在化させる。八重樫は、限定された面を塗るシステムや行程が可視化される制作のルールにより、絵画という形式の原理を更新しながら、絵画の変容を潜在的に遂行している。末永の軽やかな越境が、絵画という形式からの逸脱ではないことが、八重樫の作品によって示唆される。八重樫による絵画の原理的な更新が、絵画という形式内で完結するものではないことが、末永の作品によって示唆される。このように、二人の作品は、深いレベルにおいて、相互の特徴を照らし出す。この関係をふまえ、個別の作品を堪能する充足感と、作品同士の関係から浮上する様々な思考が関連しあい、絵画に対する批評性が発生することだろう。
モダニズムの時代を通じて、媒体の純化還元という定説とは裏腹に、絵画と彫刻の相互浸透が進み、ミニマル・アートという臨界点を迎えた。フォーマリズム批評がミニマル・アートを評価できなかった理由もこの事態に由来する。従って、ミニマル・アート以後の絵画は、反形式・脱形式・無形式という現代美術の作法とは一線を画す、「形式的変容=Transform」に、最も切実な動機を見出すのである。二人の作品を、「形式的変容を経てもなお絵画である」ことを宣言する「Transform/Paint」というフレームにおいてとらえ、「非実体的美術の可能性」を、より具体的に論じてみたい。

▊末永史尚 すえなが・ふみなお ▊
1974年山口県生まれ。1999年東京造形大学造形学部美術学科美術Ⅰ類卒業。
主な個展に2015年「アンシャープ」(GALLERY ZERO、大阪)、「カモフラージュ」(ギャラリーナカノ、山口)、「放課後リミックス」(Maki Fine Arts、東京)、2014年「APMoA Project, ARCH vol. 11 末永史尚『ミュージアムピース』」(愛知県美術館、愛知)、2013年「目の端」(switch point、東京)など多数。主なグループ展に2015年「Maki Fine Arts5周年企画「控えめな抽象」(キュレーション:末永史尚)」(Maki Fine Arts、東京)、「引込線 2015」(旧所沢市立第2学校給食センター、埼玉)、2014年「開館40周年記念 1974 第1部 1974年に生まれて」(群馬県立近代美術館、群馬)、2013年「VOCA 2013」(上野の森美術館、東京)など多数。

http://www.fumisue.sakura.ne.jp/

(左)《雑巾》2015年|合板に顔料、アクリル|20×17.8×17.8c  Courtesy of Maki Fine Arts
(中)《CDケース》2014年|パネルに顔料、アクリル|各12.4×14.3cm 撮影:柳場  Courtesy of Maki Fine Arts
(右)《Tangram-Painting (Flag)》2009年|パネル、キャンバスに顔料、アクリル|60×60cm(サイズ可変) 撮影:大西正一 Courtesy of Maki Fine Arts

▊八重樫ゆい やえがし・ゆい ▊
1985年千葉県生まれ。2011年東京造形大学造形学部研究科美術研究領域修了。
主な個展に2015年「demeanor」(シェーン・キャンベルギャラリー、シカゴ)、「To and from home」(ミッド・ウェイ・コンテンポラリー、ミネアポリス)、2014年「行儀と支度」(MISAKO & ROSEN、東京)、2012年「初夏と習慣」(MISAKO & ROSEN、東京)など。主なグループ展に2015年「アーティスト・イン・レジデンス須崎:現代地方譚3」(すさきまちかどギャラリー旧三浦邸、高知)、「Cool Invitations2」(XYZ Collective、東京)、2014年「Man & Play」(ブレナン&グリフィン、ニューヨーク)、「絵画の在りか The Way of Painting」(東京オペラシティーアートギャラリー、東京)、「ニュー・インティマシー 親密すぎる展覧会」(ホテルアンテルーム京都 Gallery 9.5、京都)、2013年「Group Show」(フェデリカ・スキアーヴォギャラリー、ローマ)など。

(左)「untitled」 2015年 oil on canvas 22.3×16×2cm Photo by KEI OKANO courtesy of artist and MISAKO & ROSEN
(中)「chart」 2015年 oil on canvas 28×19.3×2cm Photo by KEI OKANO courtesy of artist and MISAKO & ROSEN
(右)「untitled」 2015年 oil on canvas 18.5×14.3×2cm courtesy of artist and MISAKO & ROSEN

アーティストトーク 末永史尚×八重樫ゆい×梅津元