鏡と穴―彫刻と写真の界面 vol.2

「鏡と穴-彫刻と写真の界面 」 vol.2 澤田育久

Mirror Behind Hole Photography into Sculpture vol.2 Ikuhisa Sawada

2017年5月27日(土)~7月1日(土)
May 27, 2017(Sat.) - July 1, 2017(Sat.)

11:00〜19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free

ゲストキュレーター:光田ゆり(DIC川村記念美術館学芸員、美術評論家)
Guest Curator: Yuri Mitsuda (Curator, Kawamura Memorial DIC Museum of Art)

アーティストトーク:5月27日(土)
澤田育久×光田ゆり
Artist Talk: May 27(Sat.)
Ikuhisa Sawada × Yuri Mitsuda

《closed circuit》


澤田育久における規格サイズの連続連結 または写真と彫刻の循環

光田ゆり

澤田育久の写真家的決心は、今回出品される≪closed circuit≫シリーズで確立された。「閉路」を意味するタイトルで、一年間毎月個展で発表する荒行で始まったこのシリーズは、現在も継続している澤田の代表作。閉路とは、地下鉄のような鉄道網を指すという。
確かに接続、乗り入れでネットワーク化された地下鉄網は、改札を出なければ複雑巨大なチューブである。窓もなく始まりと終わりのない閉路。夜ごと彼は都内の地下鉄を乗り換え、乗り継ぎながらチューブの内側を撮影し続ける。構内、ことに乗り換え通路が主たる撮影場所である。
写真になった「closed circuit」は実にグラフィックである。澤田のデジタルカラー写真は、レンズがとらえた範囲をすべて白い面と黒い線に還元する。ほぼ白く、ほとんどモノクロームと言ってよい。あのほの暗く、隅角に不衛生な陰りが巣食う現実の地下鉄構内を写したとは思えない。極度にフラットで陰影を感じさせない、図形的な画面なのだ。そこでは大幅になにかが捨象されている。現実の物体としての壁、天井、床はひと続きに一枚のつるりとした写真になる。写真は、紙の上の幻なのだ。
すべての壁は物質であるからもとより平面ではなく、ゆがんでいて凹凸をもつ、いわば彫刻的存在物である。それぞれの場に固有の接続のしかたで天井と床につながり、ひとつのかたちをなし空間をつくる。一方で、地下鉄構内は基本的に、安価な規格品の建築材ユニットに覆い尽くされている。主に樹脂素材、ときに金属製のパネル、タイル。彫刻としての構内空間の表面は、矩形で平たいユニットで埋められる。規格材料は通路空間の現実的・彫刻的物質を、平滑な表面に見せかける。タイルの目地に積もるほこりは、黒いラインになる。そこに物質を変換する、グラフィックな写真が生じる虚の隙間が生じる。
しかも閉路の内部に居続ければ、移動する身体は地理的な位置、地表からの深度を感じとらなくなる。あらゆる駅はほとんど等価になる。内装の多少の違いは、等価性を強めるばかりだろう。身体が東京中を三次元的に行き来しても、視界が味気ない通路の果てなき連続となるとき、距離は捨象され位置は意味をなくす。そこにもまたグラフィックな写真が生じる虚の隙間が生じるだろう。
物体としての存在が写真のなかで揮発するとき、場所性もまた写真のなかで揮発せずにはいない。そのふたつは同じことの別の言い方にすぎないのだから。それを今回のテーマに引きつけて言ってみるなら、反彫刻または虚彫刻(彫刻のVOID)としての写真ということになる。
澤田は閉路の壁の一部を次々と区切り、延々と部分を写し続けて、虚彫刻写真を徹底させた。
こう撮り続けながら、展示においての澤田は、逆に物として写真を出してくる。プリントアウトされた写真の、大きな裏の白い紙を連続して吊り下げて見せる。画像をのせた紙=写真の展示は、シンプルな扱いではあっても、写真の物体性、すなわち紙性をうち出すことになる。同じサイズの紙の羅列は、プリンターの規格の必然である。澤田が写してきた規格品パネルの壁々は、グラフィックな写真の、規格サイズペーパーとなって再度実体化される。そのことは逆説的なのだろうか。いや、循環というべきではないか、写真と彫刻の。

▊澤田育久 さわだ・いくひさ ▊
1970年東京生まれ。金村修ワークショップ参加。2012年~2013年”The Gallery”及び2014年̃現在”ALTERNATIVE SPACE The White”主宰。
主な個展に2011年「closed circuit」(TOKI Art Space,東京)2012年11月̃2013年10月までの1年間、毎月新作による連続展「closed circuit, monthly vol.1-vol12」(The Gallery,東京)2016年「serial exhibition」(The White,東京)など多数。主なグループ展に2011年「Public Image vol.1̃vol.5」(vol.1神奈川県民ホール,横浜 vol.2,vol.5アートフォーラムあざみ野,横浜)2012年「Repeat After Me vol.1」( The Gallery 東京)など。主なスライドショーに2011年「anti drawing 1,2」(横浜美術館レクチャーホール,横浜)2015年東京国際写真祭(ART FACTORY 城南島,東京)など。
http://www.sawadaikuhisa.com

(左)《closed circuit, monthly vol.12》The Gallery, 東京
(中)《closed circuit, monthly vol.10》The Gallery, 東京
(右)《closed circuit》2016年

アーティストトーク 澤田育久×光田ゆり