鏡と穴―彫刻と写真の界面 vol.3

「鏡と穴-彫刻と写真の界面 」 vol.3 水木塁

Mirror Behind Hole Photography into Sculpture vol.3 Rui Mizuki

2017年7月15日(土)~8月26日(土)
[夏季休廊:8/13〜8/21]
July 15, 2017(Sat.) - August 26, 2017(Sat.)
[Summer Holidays: August 13-21]

11:00〜19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free

ゲストキュレーター:光田ゆり(DIC川村記念美術館学芸員、美術評論家)
Guest Curator: Yuri Mitsuda (Curator, Kawamura Memorial DIC Museum of Art)

アーティストトーク:7月15日(土)
水木塁×光田ゆり
Artist Talk: July 15(Sat.)
Rui Mizuki × Yuri Mitsuda

協力:有限会社 山口製作所

(c) Rui Mizuki, 2017


水木塁のS字空間疾駆写真 水平垂直フレームへの反作用

光田ゆり

壁に写真をまっすぐに掛けよう、と思う。そのとき基準にするのは、壁のセンターか、床面か、測るのには水平器か、鉛直を示す錘重を使うのか、見た目重視か。何に沿うかで「まっすぐ」の意味は変わる。わたしたちの身体は常に鉛直方向に重力を受けてはいても、視線をいつも水平に保っているとは限らない。
撮影時に、水平を厳密に設定する写真家は多い。ファインダーが直角を持つからだ。アングルが水平でない場合、生じる「ずれ」は写真像のノイズになる可能性がある。ただ水木塁の場合、自分を「スケートボーダー」だと規定するとき、動きが生まれないのが水平だとすればそれに固執する理由もないらしい。
切開された円筒の内側に似たスケーターの競技場を見ると、床と壁と天井が区別なく連続してカーブを描いて傾斜するのに軽いショックを受ける。重力の乱反射が存在の仕方を変えてしまいそうである。曲面上にS字を描いて三次元的に疾駆する身体がスケートボーダーのものならば、その運動感が生み出す視界もあるだろう。
今回の展示では、空間が撹拌されかねない、視線の運動が生まれそうだ。水木はデジタル写真のスティッチングを曲面に載せて、展示空間全体が流体化する視覚体験を作ろうとする。まずは壁面から数歩離れて、柱に曲面の写真を取りつける。
壁面を背負わない写真は柱から空間にせり出して、つまり裏と表と厚みを見せる物体になる。曲面はアルミ板の鏡面仕上げ、写真と鏡が表裏をなすという。これは「鏡と穴―彫刻と写真の界面」と本年のαМのために設定したフレーズに対して、かなり挑発的な新作である。鏡面と写真面をもつ金属板は、柱を支点に立つ写真彫刻と言ってよい。
そのとき、彫刻の躯体と写真像がどのように作用しあうだろう。曲面の反対側が映し出す周囲の鏡像と、写真像はどう交錯するのか。凹面凸面で鏡像が写真像と反映しあうとき、どんなリミックスの妙が生じるのか。いずれ現場を見てみなければ予想ができない。水木が今回提示する写真は、空間性を取り除いて一枚の平面に編集されているから、いっそうである。
彼がこのために作成した写真像は、スケートボーダーが練習に使う箱状の足場と地面を撮影して作り出したものだという。物質感の強い直方体の箱の各面を撮影しスティッチングで平たい矩形の画像に作り直す。箱の表面像となったそのデータを何通りかに切り出して、曲面の金属に焼き付けリアライズさせる。ひとつの物を多視点から撮影して矩形の平面を作る過程までは、100年前のキュビスムを思わせもするが、その像を実体物の形状とは全く関わらない曲面に誘導する飛躍こそデジタル世界である。これは何の像なのか、遡ってたどる回路は見えない。このプロセス自体が、写真像が三次元的に疾駆する様のようである。
元来、デジタル写真画像はそのようにあるものだろう。撮影データは固定されないまま、いかようにも編集され、モニターを出るときに物質に憑依して存在物になる。現実物体界の水平垂直の空間軸から放たれて虚構空間をかいくぐってきた写真データは、再び重力の場に戻るとき、水平垂直のフレームをまとう必要はない。それは多分、暗箱カメラ時代のなつかしくなじんだ額縁にすぎないのだ。
同時に作家は展示室のコーナー部分に、これは何の像なのか明らかで、撮影された存在物の元の形状を視覚的に立体的に再認できる、別の仕掛けを用意している。両方の作品が対照しあうことで、鏡像とデジタル画像、物体と現実空間の四者が交錯しあう、写真と彫刻の界面が出現することになる。

▊水木塁 みずき・るい ▊(略歴は2017年当時)
1983年京都府生まれ。2016年京都市立芸術大学大学院美術研究科メディア・アート専攻(博士後期課程)修了・博士(美術)学位取得。
主な展示に2016年「NEO-EDEN 新伊甸园」(蘇州金鶏湖美術館、蘇州、中国)、2015年「都市―Cityscapes/Residences」(kanakawanishi Gallery、東京)、「STEP OUT! New Japanese Photographers」(IMA Gallery、東京)、「PARASOPHIA 特別連携プログラム / still moving」(元崇仁小学校、京都)、2014年「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD NEW VISIONS #1」(G/P gallery、東京)、「NIPPON NOW Junge japanische Kunst und das Rheinland」(E.ON、ドイツ)、2013年「flowing urbanity」(ART68、ケルン、ドイツ)、2012年「かげうつし―写映・遷移・伝染―」(@KCUA、京都)、2009年「now here , nowhere」(京都芸術センター、京都)、2007年「水の情景-モネ・大観から現代まで」(横浜美術館、神奈川)など多数。2017年トーキョーワンダーサイト二国間交流事業プログラム派遣クリエーターとしてメルボルンに滞在予定。
http://mizukirui.net

(左)《untitled SK8 park》2016年|インクジェットプリント、アルミニウム、ロール加工 (蘇州金鶏湖美術館)
(中)《Wall works #babies and cars》2014年|インクジェットプリント(京都市立芸術大学構内 新研究棟)
(右)《Pool #そら豆02》2015年|カンヴァスにグリップテープ、耐水性チョーク

アーティストトーク 水木塁×光田ゆり