鏡と穴―彫刻と写真の界面 vol.4
Mirror Behind Hole Photography into Sculpture vol.4 Hiroko Komatsu
2017年9月9日(土)~10月14日(土)
September 9, 2017(Sat.) - October 14, 2017(Sat.)
11:00〜19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free
ゲストキュレーター:光田ゆり(DIC川村記念美術館学芸員、美術評論家)
Guest Curator: Yuri Mitsuda (Curator, Kawamura Memorial DIC Museum of Art)
アーティストトーク:9月9日(土)
小松浩子×光田ゆり
Artist Talk: September 9(Sat.)
Hiroko Komatsu × Yuri Mitsuda
《人格的自律処理》2017年
印画紙ロールのままにプリントされたモノクロ写真とは、つまりアナログ手作り写真の最大サイズである。全体を見尽くしたいと思っても、小松浩子がそれを個展で発表するとき、積み上げられ、吊り下げられ、ねじれ折れ重なっているため、何が写されたどんな写真かは半ば伏せられている。印画紙ロールの物体ががっさりとある強さに打たれてしまい、見る者は壁面にびっしり貼られた大量の写真の前で目が泳ぎ、個々の像よりも写真の存在量、物量、量塊性とでもいうものに取り囲まれる。
小松の写真は延々とあるのだ。延々とは、小松が大量に撮影して大量に展示しているという意味ではない。もちろんそうなのだが、個々の写真が似通っていて、もちろん個々は違っていて、しかも数多くの写真を見ていくのに、それが何をなぜ写したものかがわかってこないため、「延々」たる感触が生じる。
小松の写真には、工業製品規格サイズの様々な部品、資材、製品が大量に写っている。同じものが積み上げられている。それらは屋外で、保管されているのか、破棄されているのか、積まれたものはくずれ、角が欠け、表面は荒れる。すべてのものは放置され、劣化の過程にある。
大量に写っている、と書いたが、どのくらいの量かは実はわからない。小松は偏愛する「資材置き場」を、見渡すような俯瞰の位置から撮らない。野ざらしのものたちの通路に分け入り、周囲を見つめながら進むときの身体的な距離感覚が常に持続される。「資材置き場」全景というものはなく、必要もない。彼女は見渡さず、目の前を見る。
一定の秩序をくずしながら積みあがる同規格の製品たちのあいだを歩き、写し続ける。延々たる連続としてそれらに大きな存在量を与えるのは、小松が最初から行ってきたことで、初めから彼女の方法だった。
写真家は個展会場で写真を床に貼ることも始めた。限りある壁面を拡張しているわけだが、見る者はバライタのプリント群を土足で踏まなければならない。写真をプラスティックで梱包することも始めた。物流現場のラップ梱包は見慣れてきたが、写真のゼラチン面に貼りつくラップの触覚はきしむような違和感を伴わないだろうか。いずれにせよ、写真像は見えてこない。
小松のインスタレーションに圧倒されながら、写真を見せたいのか見せたくないのか、写真は大切なのか憎まずにいられないのか、疑念が生じることがある。だがそれは同語反復にすぎなかった。
写されるものの物体量と、写したものの物体量を平衡させる。撮影の場の存在量と、写真展示の場の存在量を平衡させる。そこに払われる労力量もまた平衡になる。小松浩子の写真業は、そのように誠実だ。彼女の誠実さには治癒能力がある。何らかの機構の狂いを素手で矯めようとする彼女の仕事は、粗暴な治癒行為に似ていた。
ここでの写真は、「資材置き場」の存在量とともにゴーストのようにはかなく、劣化の過程を露呈しながら簡単に朽ちはしない。敗者どうしの試合をコンソレーションというらしいが、写真の粗暴は「資材置き場」にコンソレーションを仕掛ける。わたしたちのそれであり、写真のそれであり、規格生産品たるすべてのものたちのそれであるように、小松はコンソレーションを平衡させる。
▊小松浩子 こまつ・ひろこ ▊(略歴は2017年当時)
1969年、神奈川県生まれ。
2006年に写真を始め、2009年に幅約1メートルの印画紙で壁面全体を覆った作品で初個展を開催。以降、都市近郊にある屋外に設けられた建設資材や廃材の集積場での撮影を継続しながら、壁面のみならず、床も含めた空間全体を厖大な量のモノクロ写真で埋め尽くすインスタレーションを発展させている。2010~2011年には自作の発表の場として、ブロイラースペースを主催、毎月個展を開催した。主な個展に2015年「成分家族」(トキアートスペース、東京)、2014年「二重拘束」(ギャラリーQ、東京)、2013年「毒皿方針」(photographersʼ gallery、KULA PHOTO GALLERY、東京)、2009年「チタンの心」(ギャラリー山口、東京)など。主なグループ展に、2016年「RESET II and Futurism」Priska Pasquer(ドイツ、ケルン)、2015年「7 Palaces, 7 Precarious Fields」Zephyr(ドイツ、マンハイム/Fotofestival MannheimLudwigshafen-Heidelberg)など。
http://komatsu-hiroko.com/
(左)《連続特殊訪問》2016年|Priska Pasquer|ドイツ、ケルン
(中)《生体衛生保全》2015年|Zephyr|ドイツ、マンハイム
(右)《生存芸術家》2016年|The White(東京)
アーティストトーク 小松浩子×光田ゆり