鏡と穴―彫刻と写真の界面 vol.5
Mirror Behind Hole Photography into Sculpture vol.5 Tomoaki Ishibashi
2017年10月28日(土)~12月2日(土)
October 28, 2017(Sat.) - December 2, 2017(Sat.)
11:00〜19:00
日月祝休 入場無料
11:00-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free
ゲストキュレーター:光田ゆり(DIC川村記念美術館学芸員、美術評論家)
Guest Curator: Yuri Mitsuda (Curator, Kawamura Memorial DIC Museum of Art)
アーティストトーク:10月28日(土)
石原友明×光田ゆり
Artist Talk: October 28(Sat.)
Tomoaki Ishibashi × Yuri Mitsuda
(C)Tomoaki Ishihara, 2017
「彫刻と写真の界面」といってみるとき、乳剤がイメージされる。水と油の接面に作用して混合させる卵白のような、界面活性剤の効力。アナログ写真の印画紙表面に塗られている、感光材と定着材の混淆を乳剤とも呼んでいたわけだが、この感光乳剤が塗布されたものは、像を焼き付けることが可能な、つまり写真になる。
石原友明はそれをカンバスに使ってセルフポートレイトを焼きつけ、絵具を筆で描き重ね、凸型に組んだ木枠に張りこんだものをインスタレーションして見せた。写真と絵画と彫刻、インスタレーションが混ぜ合わされた、キメラたち。ジャンル批判とは違って見えるそれらは、ジャンル横断あるいは混淆というべきだろうか。これまで皮革、プラスティック、ガラスなど多様な素材を駆使してきた石原は、ひとつの手法には留まらない。新しい境地を常に開いてきた石原の作品の展開の様相自体に、キメラ的な要素が潜んでいる。
そうした石原の仕事の定点を成しているのが、丁寧な作業ゆえのシャープな表面に内包されている、もうひとつの眼としてのカメラだろう。いわば写真とそうでないもののキメラ的混淆が、石原友明の方法になる。
それは、彼がセルフポートレイトの作家であるゆえの必然でもあった。自分を対象にすると決め、外部の眼の必要から独学の写真師にもなった石原である。制作だけでなく、自作も含めた作品撮影の仕事もこなした。彫刻の見方を提示するために自作を撮ったブランクーシのように、カメラを通して自分の作品を見てきた石原の視点はしかし、この巨匠よりも入り組んでいる。
自らを写す身体と写される身体に分裂させ、自分の写真像を材料にして別のメディウム、別のディメンジョン、別の表面に移し替えていく。自写像の物質的変換を行う作家の身体は撮影者にもなって、作品を見るべきひとつの視点を示す。そのとき、写す身体と写される身体は分裂しつつ何重にも入れ子状に反射しあうことになるだろう。それは何重にも入れ子状につくられた、写真とそれ以外のものの関係の屈曲したプロセスである。このプロセスをわたしたちは彼の作品の構造として見ることになる。
石原は、身体や顔だけでなく、細胞や体液まで像にしてきた。今回の出品作には毛髪も採り上げる。一見、抽象絵画のように見えるカンバスには、描かれた線ではなく、身体の一部としての毛髪の像がある。二次元と見まがう三次元の髪毛は、デジタル撮影したデータをフィルムに出力し、握りつぶしてから広げたでこぼこの印画紙にフォトグラムのようにかざすことで、三次元の面に焼きつけた像だという。アナログ写真とデジタルを乳剤的に混淆した次元交換のプロセスに加えて、ネガポジ反転や絵の具への置換が行われた像が絵画となる。そこにある白い影は、いくつの屈曲を経た光の姿なのか、数えてみてもよい。
ストレートでないものにだけ、リアリティがある。
▊石原友明 いしはら・ともあき ▊(略歴は2017年当時)
1959年大阪府生まれ。1984年京都市立芸術大学大学院修了。
主な個展に2016年「拡張子と鉱物と私。」(MEM、東京)、2014年「透明人間から抜け落ちた髪の透明さ」(MEM、東京)、2004年「i [the imaginary number]」(西宮大谷記念美術館、兵庫)、1998年「美術館へのパッサージュ」(栃木県立美術館、栃木)など多数。主なグループ展に2015年「still moving」(元崇仁小学校、京都)、2010年「Trouble in Paradiseー生存のエシックス」(京都国立近代美術館、京都)、2007年「Vanishing Points -Contemporary Japanese Art」(ニューデリー国立近代美術、インド)、2006年「Rapt! – 20 Contemporary Artists from Japan」(モナシュ大学美術館、メルボルン)、2000年「Counter – Photography」(モスクワ芸術センター、モスクワ、ロシア民族博物館、サンクトペテルブルグ、他)、1992年「彫刻の遠心力」(国立国際美術館、大阪)、1988年「ヴェネツィアビエンナーレ・アペルト’88」(アルセナーレ、ヴェニス)など多数。
(左)《盲目のクライマー/ライナスの散歩》(中原浩大との共同制作)2010年|ラワンベニヤ
(中)《I.S.M.-corpus 16-01》2016年|700×610×820mm|発泡スチロールに胡粉、アクリル
(右)《scotoma》2003年|真空、ガラス他ミクストメディア
アーティストトーク 石原友明×光田ゆり