百瀬文|ガイアの逃亡
百瀬文、大槻晃実
※都合により、内容に一部変更がございます
→ 前半:百瀬文、袴田京太朗(αMプロジェクト運営委員)
後半:大槻晃実(オンライン参加)
技術協力:株式会社スパイス
機材協力:合同会社AGプロダクションズ
しばしば神話の中で、女神は子どもを産み育て、自然と一体化した「豊かさの象徴」とされて語られることがある。
かつてエコフェミニズムは、人間による自然の搾取が引き起こす環境破壊と、男性優位の社会で女性が見舞われる不平等の根本の構造は同じであると主張した。しかしその中からは、「女性は新たな命を生み出すことができる敬うべき存在だ」と、女性の生殖機能と自然の生産性の関係性をたたえる傾向も生まれ、一つの本質主義的なステレオタイプを生み出す要因にもなった。
ギリシャ神話に登場する、強くて慈しみ深いガイアのことをいったん忘れてみたい。そしてガイアという名前の、あるいはわたしだったかもしれなかった、どこにでもいる一人の女性のことを想像してみたいと思う。
ガイアは普段何も語ることはない。
それは彼女自身がもう生産性を求められることに疲弊し、何も語る力も残っていなければ、動くこともできないというだけなのかもしれない。そしてそれは身体、もしくは大地に刻まれたトラウマの問題と大きくかかわることでもあるだろう。
女性に与えられる暴力と、大地に与えられる暴力のつながりについて想像するとき、わたしは常に自分自身が、女性でありながら征服者としての人間でもあることの二重性に引き裂かれる。
大地に突き刺さる白旗は、ガイアに祈りを捧げる降伏の旗にも、同時にこの土地の所有権を主張する入植者の旗にも見える。
1988年東京都生まれ。2013年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。映像やパフォーマンスを中心に、他者とのコミュニケーションの複層性や、個人の身体と国家の関係性を再考する。近年は映像に映る身体の問題を扱いながら、セクシュアリティやジェンダーへの問いを深めている。近年はアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の助成を受けNYにて滞在制作を行うなど、国内外で活動を行う。主な個展に「百瀬文 口を寄せる」十和田市現代美術館(青森、2022年)、「I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U」EFAG East Factory Art Gallery(東京、2020年)、主なグループ展に「国際芸術祭 あいち2022」愛知芸術文化センター(2022年)、「フェミニズムズ / FEMINISMS」金沢21世紀美術館(石川、2021年)、「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館(東京、2016年)などがある。


