『未来のニュアンス―スペースダイアローグ』 vol.7 田中偉一郎+増岡巽

2006年3月6日(月)~3月18日(土)


photo上:「ストリートデストロイヤー(物件003)」, 2004 (C)Iichiro Tanaka 
photo下:「空き缶ハウス」, 2005 (C)Tatsumi Masuoka


夢のマイホーム


岡部あおみ

類稀なリアリスト、革命も愛も語らないかわりに、だれにでもできる「つくることの喜び」を惜しみなく与える田中偉一郎。かたや、大阪で路上生活を楽しむ60代の増岡巽。建築業の仕事をしてきた増岡巽は、今年3年目に突入したホームレス生活者。大阪の国立民族学博物館で開催された「ブリコラージュ・アート・ナウ」では、巨大な空き缶の家を手作りした。未知の二人が考案するαMプロジェクトvol.7「夢のマイホーム」展は、計画遂行になるのか、計画倒れか。生活者としての身の丈を大事にする楽しいギャラリー・ワークショップ・ショウです。

<田中偉一郎 一人っ子アート/すっぴんアート>
泉のように、とめどもなく思いつきが湧いてくる根っからのアイディアマン、同時に子供のまなざしで、好奇心旺盛になんでも食する野人である。田中偉一郎は、愛着をもつ身の回りのものすべてを「そのまま」素材にする。しかも執着することの少ない遊牧民であるせいか、「おたく」とも異なる「一人っ子アート」を生み出した。それは超多忙な電通マンでも可能な「省エネアート」となり、化粧するのがめんどくさい独特な「すっぴんアート」になった。
表層を飾ることをせず、虚飾を省き、ものや言葉やイメージの既成のルールをはずして、合併・合宿・合作させるユーモリスティックな手法で、異質なものを浮上させ、既存の構造の変革や反論の可能性を提案する。かっこよく言えば、ジェームス・ジョイスが『フィネガンズ・ウェイク』で行った、コンテクストを脱構築するトリプル・ミーニングの造語の世界を想起させる。(カルチャーパワー田中偉一郎イントロダクションより)

<増岡巽 缶の家の超達人>
弟さんの家に寄宿する奥さんが、昼食にはかならずお弁当を運んでくるという不思議なホームレス人生。民博の佐藤浩司氏にお願いして、新大阪の駅に近いブルーシートの家を訪ねた。大阪・民博の「ブリコラージュ・アート・ナウ」展に出品された、祝祭的ですばらしい缶の家を見て、大きな感動を覚えたからだ。
夏休み中、学生たちに頼んで、飲んだ後のアルミ缶をためておいてもらったが、千個に達するのは容易ではない。民博で制作した家は1万6千個の缶を使ったという。ビール会社などの缶飲料メーカーに工場で廃棄される缶の協力をお願いしてみたけれど、空振りばかり。
ところがある日、奇跡が起きた。ある製造元の藤沢の工場から、大量の空き缶が送られてきたのだ。しかも丁寧に洗ってある。感謝感激!あとは大阪から増岡さんを待つばかり。私はすでに入門篇ぐらいはこなせるようになったが、みなさんもこの機会に、空き缶オブジェ作りをマスターしてみませんか?