東京計画2019 vol.4
Plans for TOKYO 2019 vol.4 milksouko+The Coconuts scratch tonguetable
2019年9月28日(土)~11日9日(土)
September 28, 2019(Sat.)-November 9, 2019(Sat.)
11:00~19:00 日月祝休 入場無料
11:00-19:00 Closed on Sun., Mon. and Holidays
Entrance Free
ゲストキュレーター:藪前知子(東京都現代美術館学芸員)
Guest Curator: Tomoko Yabumae (Curator, Museum of Contemporary Art Tokyo)
オープニングパーティー
9月28日(土)18時~19時
Opening Party: September 28(Sat.) 18:00-19:00
アーティストトーク
9月28日(土)19時~
Artist Talk: September 28(Sat.) 19:00-
ミルク倉庫+ココナッツは、電気工事、エディトリアルデザイン、土木施工、建築、音響など、特殊な技術を持った作家たちによる集団である。造形作家、画家、音楽家、デザイナーなどと呼ぶこともできるが、しっくりこないのは、その作品の核が、表現形式よりも、それを体系づける技術の可視化にあるからだ。ここにはもちろん、フランシス・ベーコンの定義に立ち返るまでもなく、概念成立の過程で分離されていった「art」と「技術」の関係を再定義する意志もあるだろう。彼らはこれまで、環境の持つ条件や、物体の組成、物事の因果など、自分の外部にあるものがもたらす抵抗に対して、諸技術を発動してきた。そもそも「ミルク倉庫」とは、彼らの共同作業場の名前であり、その場を整えていくことから活動が始まったという。
彼らが注目を集めた活動の一つに、自らのギャラリー兼アトリエであった築55年の木造建築が取り壊される前に、そこを会場として行った「無条件修復」展がある[註]。これは、老朽化した建物を舞台に、「修復」という技術にフォーカスした連続展覧会であった。例えば、傾いた梁を持ち上げるための構造物を、立体作品としても知覚されるように提示する。あるいは、建物の原型の復元として、増築されていた最上階を舟として切り出す。作家による場への干渉の全てが「修復」となる地平が示されることで、「創造」と「破壊」という対概念が宙吊りになり、「作品」という概念すら更新される可能性に満ちた機会だった。
一方で、2015年のこの展覧会は、その後、現在に至るまでオリンピック前夜の東京の各所で間断なく行われることになった、スクラップ・アンド・ビルドの動きに対する批評的な言及でもあっただろう。2019年の東京で、都市というシステムを再検討するこの連続展覧会において、ミルク倉庫+ココナッツは、人間の最古の技術であるという料理から、それらのテーマを照射しようと試みる。料理、すなわち「家政」の領域は、「国政」に対置される概念であり、ギャラリーに彼ら自らの手によって設えられたキッチンと、それを支えるインフラは、都市の機構のアナロジーとして見ることができるだろう。
このキッチンで作られ、供されるのは、多文化から発想されたクレオール的な発明料理である。料理とは、物質変化を制御する術であり、遡って、資源、物流、インフラ、地勢、歴史など、都市の諸相を思索することができる媒体である。例えば、ラビオリやコロッケの組成を通して、都市の物理的構造を知る。野菜くずやAmazonのダンボールの転用から都市資源やゴミ問題について、コンフィから電気インフラに言及する。一つの鍋を連日異なる文化圏の料理に転用していく料理に、都市の、パランプセストに比すべき異文化の多重性を考える。こんにゃくを使った代用料理から、都市空間に住まう者の匿名性に、お菓子から、植民地の歴史に思いを馳せる・・・等々。
発酵と菌を使った料理は、その場所固有の風土条件とともに、ミルク倉庫+ココナッツの一貫した興味の一つである、エネルギー変換のモデルを私たちに示してくれる。それを食べるという行為は、料理の物質変化がもたらすエネルギーを媒体にして、身体と都市とを串刺しにすることでもあるだろう。料理を通して、私たちは自らの身体の拡張として都市を経験することができる。残念ながら、この展示では、会場の性質上、料理を食べていただくことができない。しかし、レシピから拡張されたテキストを読むことで、私たちは、食べるという個別的な経験を、宙吊りのまま想像の中で共有する。ちょうど、ギャラリーの中空にしつらえられたキッチンのように。そうしてみると、クレオール的な多文化料理に焦点を当てた彼らの意図が見えてくるだろう。これらの料理から私たちのうちに仮構されるのは、異なる文化が混在し転用されつつ共存する、もう一つのありうべき都市の姿である。
ところで、技術とは何かを考えた時、その大きな特徴は、伝達可能性に見出されるだろう。それは反復可能であり、同時に移動可能である。技術を介して、人は旅をすることができるし、個としての自由を得ることができる。料理の技術はその最たるものだろう。そうしてみると、この展示室の地下に設えられたキッチンが、個人の密やかな抵抗の場所にも見えてこないだろうか。料理を介して、人は、政治や宗教や地勢によらない共同体を作ることもできる。技術の交換から新しい協働のあり方を模索するミルク倉庫+ココナッツのように。まずはこのレシピを持ち帰り、自分の家で再現してみるところからはじめてみたい。
[註] ミルク倉庫+ココナッツと高嶋晋一が共同企画したグループ展。2015年4月のプレ展開催を経て「無条件修復—UNCONDITIONAL RESTORATION」として、2ヶ月に渡りリレー形式にて開催された。
▊ミルク倉庫+ココナッツ みるくそうこ+ここなっつ▊
2009年に結成したミルク倉庫に、2015年よりアーティストユニットのココナッツが加わり、現在は7名でミルク倉庫+ココナッツとして活動。メンバーそれぞれが、電気や電子制御、音楽、エディトリアルデザイン、建築や土木系技術などの専門的な技能を有し、自ら、共同のアトリエの改修や改装をおこない運用する。ものに備わる潜在的な機能の発見や、道具と身体の連関から着想し制作をおこなう作品を特徴とし、展示やイベントなどの企画もおこなう。2016年、「Art Fair 2016—Various Collectors Prizes」にて、3331 Arts Chiyoda賞 Silver Prize受賞。2017年、「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」大賞受賞。主な個展に、「Chewing Machine チューイングマシーン」(2017年/S.Y.P. art space)、「家計簿は火の車」(2016年/3331 GALLERY)、 「ミルク倉庫の出張台所」(2011年/路地と人)など。主なグループ展に、「タイムライン-時間に触れるためのいくつかの方法-」(2019年/京都大学総合博物館)、「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017—身体のゆくえ」(2017年/岐阜県美術館)、「所沢ビエンナーレ‘引込線’2011」(2011年/旧所沢市立第2学校給食センター)など。主な企画に、「無条件修復 UNCONDITIONAL RESTORATION」、「ミルクイーストパブナイト—イン・タヴァン・エールハウス」(ともに、2015年/milkyeast)などがある。
(左)《無条件修復》 展示風景 主催=ミルク倉庫(2015年)|Photo by Shu Nakagawa ミルク倉庫+ココナッツ
(中)《家計簿は火の車》2016年|奥から:《家計簿は火の車のための什器 (ブックホイール型ーアゴスティーノ・ラメリに倣って)》、 《家計簿は火の車のための什器(マガジンラック型)》、 《家計簿は火の車のための什器(ハードカバー型)》|Photo by Azumi Kajiwara
(右)《cranky wordy things》2017年|モニタ、秤、紙袋、壺、ピスタチオ、フラスコ、 木槌、モータ、ペットボトル、ポリタンク、他|Photo by Azumi Kajiwara ミルク倉庫+ココナッツ
アーティストトーク ミルク倉庫+ココナッツ × 藪前知子