開発の再開発 vol.8
Redevelopment of Development vol. 8 Multiple Spirits: Anytime Lunatic – Family Abolition
2024年11月30日(土)–2025年2月8日(土)
[冬期休廊:12月22日(日)–2025年1月6日(月)]
November 30, 2024(Sat.) - February 8, 2025(Sat.)
[Winter Holidays: December 22(Sun.) - January 6, 2025(Mon.) ]
12:30–19:00
日月祝休 入場無料
12:30-19:00
Closed on Sun., Mon., Holidays.
Entrance Free
ゲストキュレーター:石川卓磨(美術家・美術批評)
Guest Curator: Takuma Ishikawa (Artist, Art Critic)
アーティストトーク:11月30日(土)18:30–
Multiple Spirits×石川卓磨
Artist Talk: November 30 (Sat.) 18:30-
Multiple Spirits × Takuma Ishikawa
協力:平和紙業株式会社、株式会社竹尾
遠藤麻衣《いつでもルナティック、あるいは狂気の家族廃絶》2024年
展覧会出展者:
〇九一四、エイミー・スオー・ウー(吴索)、遠藤麻衣×百瀬文、デュー・キム、KDM–権力の女王、ラジオグーグー、ほか
『Multiple Spirits vol.4 いつでもルナティック』寄稿者:
〇九一四、百瀬文×金川晋吾×森山泰地×斎藤玲児、エイミー・スオー・ウー(吴索)、何殷震、マヤッサ・クライット、KDM-権力の女王、ソフィー・ルイス、遠藤麻衣×百瀬文、BARBARA DARLINg、デュー・キム
マルスピおしゃべりの相手:根来美和
展覧会協力:小林椋、森山泰地、山本悠
編集協力:根来美和、李芸濃
Participants:
0914, Amy Suo Wu, Mai Endo × Aya Momose, Dew Kim, KDM-Königin Der Macht, rajiogoogoo, and more
Multiple Spirits vol.4 Contributors:
0914, Aya Momose x Shingo Kanagawa x Taichi Moriyama x Reiji Saito, Dew Kim, KDM-Königin Der Macht x Myassa Kraitt, Sophie Lewis, Mai Endo x Aya Momose, BARBARA DARLINg, Amy Suo Wu
Concept Consultation: Miwa Negoro
Exhibition: Muku Kobayashi, Taichi Moriyama, Yuu Yamamoto
Editorial Assistance: Miwa Negoro, Enno Yinong Li
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Multiple Spirits(マルスピ)は言説や知識の伝播、流通、転用に興味を持っており、過去に生まれた視覚表現や言説が現在の現代美術、大衆文化、アクティビズム、クィア・カルチャーにどのように影響を与えてきたのかを探求してきました。本展はとくに、家族廃絶やアナーカ・フェミニズムの言説、視覚表現、実践について、雑誌メディアに着目した調査から生まれてきました。
「家族廃絶」とは、「家族」という概念と表裏一体である近代の資本主義や新自由義、異性愛中心主義、植民地主義・帝国主義を受肉した社会や構造への批判とその廃絶を示します。抑圧や制御を前提としたヒエラルキーからの解放を目指しつつ矛盾や葛藤も含むこの実践、運動、言説、そして表現の探求において、私たちは、少女ギャグマンガ『ルナティック雑技団』の美学に着想を得ています。このマンガは、少女マンガのコードの過剰さと1960–70年代のアングラ文化的表象に対する茶化し、そして「家族」ではなく「雑技団」の枠組みを通して、ジェンダー、階級、病理化されてきた女性のヒステリー、「家族」が抱える複数の厄介さを扱っています。そのような規範の揺るがしや逸脱という視点から、日常生活と地続きにある言葉や表現、現代の芸術とアクティビズムを緩やかに横断する実践を紹介するとともに、女性運動に関わる雑誌や資料を、植民地主義・帝国主義と不可分な近代化社会における解放運動として再文脈化することを目指します。
Multiple Spirits(マルスピ)は、アーティスト・俳優の遠藤麻衣とキュレーター・批評家の丸山美佳によるコレクティブである。日英バイリンガルのクィア・フェミニストの思考と実践を目指す ZINEの発行を中心に、展覧会・コラボレーション制作・翻訳など多様なプロジェクトを展開してきた。マルスピにとって展覧会とは、単に作品を展示することを目的とした場ではない。それはZINE制作の延長線上にあり、クィア・カルチャーを中心とした彼女たちの実践の場として捉えた方が適切だろう。ZINEや雑誌では、複数の筆者による記事が寄稿されるように、今回の展覧会では、マルスピのほかに、国内外からアーティストたちが参加する。
ここで出版=展覧会という考え方は、家族の写真アルバムとのアナロジーとして捉えることができるかもしれない。なぜなら、写真アルバムは、バラバラに生活している家族を一時的に一つの場に集める・保存する媒介だからだ。
もちろん、この推論は的外れである。なぜならマルスピは、「家族廃絶」とアナキズム(無政府主義)とフェミニズムを結びつけた「アナーカ・フェミニズム」を標榜しているからだ。「家族廃絶主義」ではなく「家族廃絶」と示すことには、二人の実践へのより強い意志が込められている。
こう書くと戸惑う人も少なからずいるだろう。家族という共同体の連帯は、愛、ケア、アイデンティティの基礎として、社会の中で最も重要な生活単位と考えられているからだ。しかしその一方で、家族は、ドメスティックな暴力、家父長制、無償労働、性的役割、排他的な共同体の源泉になっている。「家族廃絶」という言葉に拒否感を持つ人でも、家族が抱える抑圧的な構造の存在を否定することはできない。さらに、家族廃絶というラディカルな概念を検討するためには、ドメスティックな家族の問題に留まらず、封建的な社会システム、資本主義、近代化、天皇制、植民地主義、人間中心主義に対する批判的検討が不可欠である。したがって、マルスピの批判の射程は広範囲に及ぶ。
では、この大胆で急進的な姿勢と実践は、何か希望や可能性を生み出すのだろうか。それを性急に求めることは、アクティビズムの本質を見誤ってしまう。まず「否」と強く主張すること、あるいは未来のディストピアを歌うこと——今日のアクティビズムの実践は、そこから始まる。そして、そこで結ばれる新しい共同体/展覧会のかたちが、私たちに未来を予見させる。彼女たちはその新しい共同体のかたちをあえて「雑技団」と名付けた。これが一つの抵抗であり、創造的実践となる。マルスピはラディカルに破壊的な「開発」の再開発を試みる。
▊Multiple Spirits マルチプル・スピリッツ▊
2018年にアーティスト・俳優の遠藤麻衣とキュレーター・批評家の丸山美佳によって、日英バイリンガルのクィアフェミニストの実践を目指すZineとして結成・創刊。ファンジンやウェブ記事を発行しながら、研究調査、展覧会、コラボレーション制作、トークイベント、翻訳など多岐に渡るプロジェクトを展開。セクシュアリティー、ジェンダー、人種、階級といった重なりあう差別解体を視野にいれ、様々な角度から芸術活動の研究と紹介をする。また、東アジアにおける芸術運動やクィアフェミニズム運動と雑誌メディアといった大衆メディアやアーカイブの関係性の調査を行い、2020年には、歴史的研究資料や雑誌と現代美術で構成した展覧会「When It Waxes and Wanes」Vereinigung bildender Künstlerinnen Österreichs(ウィーン)を企画、開催した。
(左)『Multiple Spirits(マルスピ)』左からvol.1、vol.2、vol.3
(中)企画「When It Waxes and Wanes」(2019年)VBKÖでの展示風景 撮影:Claudia Sandoval Romero
(右)「ジェンダーワークショップ」(2020)名古屋芸術大学での風景 撮影:田村友一郎